娼婦みたいに抱いていてくれ

「よお」
 シカゴから半日近く車を走らせた。テキサス州に程近いモーテル、その男はまるで最初から待ち合わせでもしていたかのように現れた。
 ドアを開けるなり入り込んできたかと思えばベッドに置いていたバッグを端に寄せると、今度は自身でド真ん中を占領してしまう。こんなことをするのは彼しかいない。男はサイドテーブルへ腕を伸ばし、飲みかけだったミネラルウォーターを寝転んだまま口にする。
 零れた水でシーツが濡れてゆくのを見ながら私は、私は少し震えた声で、彼を――自慢の高級スーツが血で汚れている、ジョルディ・チンの名を呼んだ。
「なんだ」
 返ってきた声はいつもより気の抜けた、けれどはっきりとしたジョルディの声だ。私は一人分の体重にすら軋んだ音を返してくるベッドを刺激しないように腰掛けると、目を離せば――離してなくても御構い無しに――悪さばかりする男の手を掴まえる。
「嘘は無し。まず、どうしてこんなところに?」
「ああ……ダラスで仕事だったんだ。メキシコから密入国してきてたマフィアをバンバンとな」
「私のバッグに発信機を何個付けてたの?」
「三つだ。言っとくが結構したんだぞ、おかげで一つは生き残ってたが」
「どうして――――」
「尋問でもするつもりかあんた。まあいい、続けてくれ」
「そんな怪我をするなんて、らしくない」
「らしくない?」
 はは、と乾いた笑み。
「らしくない俺になら優しくしてくれるのか」
 掠れながら吐き出すように投げられた言葉が、私の胸を揺らす。
「……そうかもしれない」
 どこまでも暗く冷めきった眼が私を見つめている。いつだって次の瞬間には銃を突き付けてきてもおかしくない男は口元だけで嘲笑って、血の匂いでいっぱいなその腕の中へ私を引き摺り込む。
 いつだったか気の迷いで重ねたときよりも冷たい体へ腕を回せば「一晩幾らだ?」と、耳慣れてしまった冗談が部屋に溶けてゆく。溶けてゆくほど、緩やかに。

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