
みるくいろの呪い
教え子を犯した。
一晩で二度も。いや、何度か覚えていない。
『抱き締めて、いただけませんか』
思い出をくれるつもりで――そう言われてからの記憶がすっかり浚われてしまったかのように漠然として、今、眼下にあるのは困憊した肢体。私に無体を働かれた、いたいけなおんなの細腰。ザクロ。その名を呼ぼうとして、止める。
懐く資格も無い後悔が、繋ぎ目から溢れる液体にも似た粘つきで頭の中を支配していた。窓の外はまだ暗い。せめて苦しむ時間の短かったことを願いながらゆっくりと引き抜こうとして、吸い付かれる。
この、蠕動が――……もう一度、という邪心が下腹を重くさせた。
「っあ、ぁ、……っんぅ……」
余韻を刺激してしまったようだった。ザクロは一瞬、怯えたように私を見て、動かすのもやっとらしい腕を使って身を捩ろうとする。私は半分ほど埋めたままになっていたものを一気に引き摺り出してやり、腰を跳ね上げて震えながらちいさく喘ぐからだに触れる。
「うあッ、あ……ぁうぅ……っ」
――目の毒だな。
「ザクロ」
「ぃ……せん、せい……」
ずっとこうして触れてみたかった。頬を染めて私を見上げるときの唇を貪って、小振りな尻を鷲掴みにして、乱暴に貫いてしまいたかった。君が望んだ私はしないだろうからと蓋をして閉じ込めてきた下劣な肉欲を、こんなかたちでぶつけるなんて。
「すまない。手心を加えるべきだった」
ザクロの頬をそっと撫でてやれば、蕩けた瞳から涙がひとしずく零れる。赤く腫れてしまった目元から流れたそれは私の手を避け、シーツに吸い込まれてゆく。
「水を持ってくるよ。……避妊薬も」
避妊という言葉にハッとしたのか、ザクロが目を丸くしながら頷く――君は青褪めた顔も良い。思うだけに留め、背を向ける。
孕んでしまえ。
なにが“思い出”だ。なにが“これで最後にします”だ。私との関係を明るみにしたくないと言って……私の立場を慮って……それがどれだけ私を傷つけることばなのか、君ともあろうものが想像もつかなかったか。
孕んでしまえばいい。
避妊薬を調合するための素材は揃っていた。
だが、私はただの回復薬と水を掴んで戻る。こんなことを考えたくはなかったし、ザクロが憧れていた先生はきっとしないだろう。ベッドの上で指を出し入れして私のものを掻き出そうとしているザクロに「これを飲みなさい」と差し出しながら、なにをしているんだと怒鳴りつけてやりたくなる気持ちを圧し殺す。
「すまなかった。もう二度と――」
二度と、なんだというのか。
私の口からはザクロを安心させるための戯言が続けられていて、せいぜい身体の痛みを取ることしかできない薬を避妊薬だと信じている華奢な肩を抱きながら「本当にすまない、すまなかった」とこれから彼女に起こり得るであろうあらゆる災難への謝罪を繰り返す。
君の幸福も苦難も私の与えるものがいい。
底無しに欲望する私の想いのすべてを知ってしまったら、君が私を選ぶ理由などひとつも残されないだろう。しかし私はそれでも君に、世界と私とを天秤に掛けて、私を選んでほしいのだ。そのためならなんでもするよ。
ああ、本当に、なんだってするとも――――
まだなにも知らない微笑みに堪らず唇を奪う。君はなにも知らなくていい。