ハニー・ハニー

『ああ……坊や、泣かないで。柘榴だよ、柘榴が来たよ』
 頭の中に声が響く――鬼ノ眼が疼く。
 真っ先に目覚めた右眼がまた俺を苛立たせる。無性に眼球を毟りたくなって右腕を探した。指先が土を掻いて、吐き気と共に臓腑は迫り上がり、咳き込めば血の塊が口から出た。次に出てきたのは疑問だった。
 ここは伏見か。……俺は、まだ生きてるのか?
 身体中で暴れていた幻魔蟲が静まり返っていた。フォーティンブラスは死んだのか。目蓋を閉じても視界が回る。じゃあ奴らはどうなった。胃の酸を吐く。ああ、許せねえ、許せねえ、許せねえよ。あいつは、柳生十兵衛あかねはどうなった。俺は、柳生おめぇらの誰よりも、強かったってのに…………。

 俺ァ、あんた・・・だって殺したのに……………………。

 意識が戻って、どれくらい経ったのかわからない。何処へ向かっているかも知らなければ、陽の昇った沈んだを数えることもなかった。空の明るくなると暗くなるとを繰り返して、繰り返すのにも飽きてきた頃に雨が降り始めた。そういえば――――頭を、撫でられたのはこんな日だった。
『そうだよ。おまえは誰より強い』
 柔らかい腕の中に招かれて、そこで眠った。
『だって、あたしの姉さんの子だものね』
 欲しい言葉を好きなだけ囁かれながら、そこでだけはよく眠れた。
『だから宗矩、――』
 だから俺は、いままでどうもありがとうと、最初に殺ってやったんだ。
『宗矩』
 目覚めたときから俺に付き纏う気味の悪いおんなの声は、最愛のものとよく似ている。うんざりするほど、惜しくなるほど、よく似ている。
「…………あんたもしつけぇな」
 ふと、己の肩を抱いてみた。
 骨が軋む。つめたい肉が抉れる。
 それだけだ。

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