
君の銀の翼
「俺もエムリックの生徒になろうかな」
聞き流しても構わないと言わんばかりの態度で、しかし聞こえるように呟かれた声は、きっと口にした本人の予想を飛び越えてしっかりと“教授”に届いた。
宝飾で埋め尽くされても品格を損なわない(富の王とは大きな違いだ!)エムリックは、うっとりするような所作でペンを置き――
「ルーク」
不貞腐れ、だらしなく椅子に凭れていた青年に微笑みかける。その笑みには強かな裏も隠された罠も無い。エムリックそのひと、そのものの、うつくしい笑顔だ。彼はまとめてやって来ていた職場からの手紙の束を机の端に寄せると、柔らかく微笑んだまま言う。
「――屍術に興味が?」
ルークは首を振る。
「そうか」
エムリックとて、わかっている。死を友とするよりも、雷と踊るのが似合う青年だ――鳥のように自由な彼が秘める不可侵の領域ごと愛しているのだから、わかりきっている答えだ。そう、ただ、珍しく素直ではない恋人への意地悪な問いかけをしてみたかっただけなのだ。
「エムリック」
「聞こうか」
「俺が此処でおとなーしくしているのはさ、マンフレッドが淹れてくれるお茶だけが目的じゃないし……本が読みたいわけじゃないし、……わかってるだろ」
そこまで言って拗ねるように唇を尖らせたルークへ、エムリックは「おいで、ルーク」と言いながら手招きした。そういう言葉が聞きたかった、とは言えない――今は恋人を揶揄うときではなく、甘やかすときなのだから。
皆を束ねようと背筋を伸ばしているリーダー然とした彼はいったい処へ行ってしまったのか、ルークはまるで聞き分けのないこどもの貌でエムリックの前まで来ると、キスをせがんで恋人の首に腕を回す。
「次に俺を放ったら、あんたを置いて冒険に出てしまうからな」
「……けれど、帰ってきてくれるのだろう?」
「ああ、ピカピカのお宝と一緒にな」