
花にはなれない
隊舎の敷地に秋海棠が植わってるんだ――それを『散歩にでも行かないか』の代わりにするほどわたしたちの関係はぎこちなくて、あなたはあなたらしくなく、わたしもわたしらしくないまま「見てみたいです」と可憐しいふりをする。
これが、数百年、続いている。
「まだすこし早かったな」
わたしの斜め後ろから、「綺麗です」と返されるのを期待する声。そわそわと気にして、いったい誰に見られたくないのだろう。
「そうか、気に入ってくれたか」
誰だとしても、関係のないことなのだけれど。
「とても」
これでも本心で言っているつもりなのに、どこか白々しい。どうしようもない――呆れられているかもしれない。彼の目が、その優しさゆえに当惑し、困り果てて、右往左往としてしまうのを見ないようにした。幸いなことに、今日は逃げ道があった。
「十四郎さんもよくご覧になって」
「あ、ああ」
いつも疎々しく散らばるばかりのわたしたちの視線は、綻びる淡紅色の花弁に集められている。気にしなければいいのに気になってしまって、すこしだけくすぐったい。下手を打てば雑草のように生い茂っておかしくない秋海棠は、此処に在って然るべきだと言わんばかりのすがたで風に揺れているのに。
「十三番隊の隊舎は、いつも綺麗に花が咲いていますね。羨ましい」
雨乾堂で病褥に臥せる時間の多い彼のことだ、隊士が和気藹々と手入れしてくれているのだろう。そして部下たちのことを弟妹かのよう思っている彼のことだ、こう言われて悪い気はしないだろう。確信を持って振り向けば、目が合い、…………なんで?
「なら、見たくなったらいつでも来ればいい」
どうして、いま、目が合ってから笑ったの?
「実は、俺が植えたんだ」
「……そうでしたか、十四郎さんが」
「盆栽も良いが花は花で難しくてな、やりがいもある――柘榴は花が好きだろう?」
「…………」
数百年。正確には三百と十二年四ヶ月五日、わたしを愛しているふりをしてくれたことには、本当に、こころから、感謝している。
「柘榴? どうし――」
けれど。
「破道の四、白雷」
指先から閃光。土を抉り、花は満ちるより先に散った。その一片が、あなたの胸元へ張り付く。……まるで、いいや、もう、わたしには関係のないこと。
「ッ……柘榴、なにを」
「花が好きなおんなは、こんなことしませんよ」
「だからといってこんな真似」
「あなたの」
あなたはいつか訪れる、けれどまだ遠い、その“時”のことを考えている。かろうじて引き留められているだけのいのちの使い道を決めている。そしてそれはわたしとの出逢いで揺らぐものでも、わたしの気持ちで変えてくれるものでもない。
「……あなたのことが好きなおんなも、また」
そう、きっとそんなあなたのことがずっと、わたし、あなたのことが、嫌いだったのだと思う。
「十四郎さん」
「柘榴、待て」
せかいで、いちばん――――
「離婚してください」