
海と迷い子
立入禁止のビーチには、一組の男女の姿があった。
男は波打ち際に横たわる女の、流れ着いてしまった小枝のように細い体を持ち上げる。男の――ディージェイの腕はそんなことをするために生えているわけではなかったが、見つけてしまったものは知らなかったことにできないし、いつの間にかこうしてやることが彼の役割のようにもなっていたから。
ぱちり。と開いた女の目蓋が、ぱちぱちと瞬く。その表情はいつもと変わらずどうしてこうなっているんだろうとでも言いたげで、緩慢に向けられる彼女の視線。その瞳は、気怠げな態度とは裏腹に、男のサングラス越しにも眩しく感じられるほど澄み切った色をしていた。
「よお柘榴、海のRhythmは心地良かったかい?」
「…………うん」
「そうか。そりゃ良いことだ、ベイビー」
ディージェイは緩く笑いながら柘榴の足を砂浜に着かせるとその体が自分に寄り掛かってきたのを確認して、肩から下げていたタオルを手に取る。冷え切った彼女を包みながらいつものように腕の中に収めてしまえば、もう二度と離すものかと思うのに。
――柘榴からは、ディージェイの知らない海の匂いがする。
慣れ親しんだジャマイカのビーチには相応しくない、暗く、静かな、海の底の匂いが。深く息を吸い込めば引き摺り込まれてしまいそうだ、と。ディージェイは、いつもそうして彼女を離してしまうのだ。
「さ、帰ろうぜ。帰ったら、朝が来るまで踊って歌おう」
そうしたかった。そうしなければならない気がした。ディージェイはそんなことを考えながら、いつものように彼女を急かして帰路を急いだ。