
氾濫歓喜
素肌に触れるシーツが湿っていることに我慢出来ず起き上がる。右脚をぐるぐると覆うギプスから覗いている剥き出しの爪先は冷たいし、せめてペディキュアをしたいと思った。
……少しも可愛くない私の足を大事そうに撫でてくる手の持ち主に、少しでも可愛がられたくて。添わされた手へ自分の手を重ねたら、返されるものを知っていた。彼が無償で与えたいと願っていたものを、私はこの身を対価に買い取ってきたのだから。
宥めるようなくちづけの感触は柔らかい。私があげたリップクリームを使い切ってからは律儀に同じものを買っているらしい徳謀さんの、見た目にそぐわない唇の甘さが口の中に間怠く広がっていく。
「やっぱり、まだ入院してれば良かったかなぁ」
「何故だ」
「二人じゃ面倒見られないからって、おじいちゃんのお世話になるなんて聞いてなかったんだもん。お父さんもお母さんもさ、よりにもよってって感じじゃない?」
なんにも知らないのだ、笑ってしまう。堪えられずにあはははと笑い始めた私に向かって両腕を広げる男の苦笑も見慣れたもので、何度も誘われてきたそこへ背中から飛び込めば歳の割に逞しい腕はシートベルトのように私を抱き締める。首筋にふわふわとした髭が当たって、少しだけざらりとした肌が擦れた。顔の輪郭に唇が触れて、やんわりと歯を立てられる。それだけで私の体は少し震えて、内腿にぎゅっと力が入った。
「……それに。おじいちゃんだって、困るでしょ。いきなりこんな怪我人の世話しろだなんてさ」
「気にせず甘えておけばよい。それに、我輩を困らせようと思うならもっと我儘にならんとな」
「困ってないの」
「ああ。……いや、ベランダから落ちるほどのお転婆のまま育ったことには手を焼かされるが――こうしている分には可愛いものだ。むしろ、喜ばしい」
どうして。問い掛けようとした唇を塞がれる。
そのまま熟れた動きで横に寝かされたら、シーツの冷たさに気を取られ――隙を突くように唇を吸われてしまえば、意識がそこだけに向いていく。ああ。するんだ。したいんだ。
「男というものはいくら歳を重ねても、惚れた女に頼られたならそれだけで嬉しくなるほど単純な生き物よ」
「……――徳謀さんも?」
「ああ、そうだ。おぬしに惚れた、ただの男だ」
してくれるんだ――さっきまでしてたのに。
眠りかけていた熱を起こす指は太腿からお腹へ、お腹から胸へ辿り着く。肌にかかる吐息は熱くて、伝わる鼓動は早かった。子供部屋の扉をノックするみたいに乳首が弾かれて声が出る。ギプスがあるせいで上手く刺激を逃せない。
「あ、ふ、ふふ……くすぐったいよ」
「くすぐったいだけか?」
「んっ……ちがう、けど……」
「ならばこのまま」
まだ潤んでいた割れ目に勝手知ったる指が差し込まれると、あっという間に二本目、三本目と増やされ、「もう挿入りそうだ」なんて言われながらクリトリスを撫でられたらすぐにイった。私の我慢強くなさをよくわかっている徳謀さんは私から非難される前にコンドームを素早く付けて、なのにいりぐちへ擦り寄せるだけで焦らしてくる。足が無事なら背中を蹴っていた。睨み付ければあしらうように笑われて、かと思えばゆっくりと、浅いところで抜き差しが始まって、奥歯が震えてカチカチと鳴った。
「あっ、あ、っんん……ぅ、あ……」
「好きか、これが」
「……き、すき、……あ、ああっ、あ、とく、ぼ……」
「好きなら、……好きなだけ、くれてやろう」
「あ゛――ッ、い、ぁ…………ああ……っ!」
「甜姫。……我輩のすべては、もうおぬしのものだ。…………そうだな?」
言いたいことがわからない。
わかるのは、……幸せを、願われているということ。
私のため祈り続けるこの人に抱かれるとき、このときだけは少しだけ、ほんの少しだけでもいいから、優しいひとになりたいと思えた。傷付きながら私を愛する、この人のために優しくなれたら。
よすがは罪過。祝福には、程遠い。