
鉢植えを買いに行く男
隠し刀は死んだという。
いつ、どこで、だれのせいでとも知れないが、とにかく俺は“それ”が死んだことを“そいつの首”から聞かされている。夜半、気配も無く枕元に立っていた(いや、正確に言うなら転がっていた)生首の声に起こされるばかりかそいつはにっこりと笑いながら「死んでしまった」と言うものだから、俺はいよいよ頭がおかしくなったか、まさか物の怪に化かされているのかと思ったが、どちらにしても――――冗談じゃない。
「そうか」
それだけ言って俺は寝ることにした。生前よりも喧しくなった、名前も知らない人間の頭部が何事かを喚いていた。
そして、朝。
「おはよう、斎藤。顔色が悪いな、飯は食べた方がいいぞ」
「…………元気そうだな」
「ああ、体が軽い。……無いからだろうか?」
死体にしては綺麗な顔をしているそれが、やはりにっこりと笑いながら少しも笑えやしないことを云う。俺はその頭に手を置いて、生きているにしては冷たすぎる肉の塊を撫でてやる。今まさに斬られたばかりのように赤々とした断面が見える。俺ならもっと上手く斬った。いつ、どこで、だれに斬られたのかを聞くつもりはない。俺は俺のことをそれなりに理解している。
「さいとお」
「なんだ」
「なんだか優しいな」
「……気のせいだろう」
あんたはなんだかおかしいな。そんな顔で笑ったか?そんな瞳で、俺を見てたか?俺たちがどういうものか忘れでもしたのか?
色んなやつらに愛されてたのに、どうして俺のとこに来たんだ?
気の迷いなら、よしてくれ。目を離した隙にでも、何処か遠くへ行ってくれ。そんな俺の気持ちなど知らず、その生首はにっこりと笑いながら俺を見つめている。俺も、あんたを見つめている。
馬鹿みたいに天気が良い。