君がため誂えたるは群青の

 断りを入れて後ろから手を回してみれば、泰然自若と云えば聞こえのよい雰囲気に反して鍛えられている身体へ容易に触れることができた。
 武芸を磨くのに明け暮れる人々と比べてしまっては悪いけれど、将軍方と並び立てばそれはそれは繊細に見えるひとだというのに――意外にも、と感心していることを気取られないうちに引き締まった胸から腹を撫でる。
柘榴、殿」
「なにか?」
「いえ――お気になさらず。どうぞ、続けてください」
 返事はしなかった。最初からそのつもりだったからだ。
 息を詰める気配がして、お言葉に甘えて気にしないことにしてみたけれど、今度は唾を飲み込んだ音を耳が拾ってしまったが良くなかった。荀攸様。優しく呼び掛ければなにをされるのかと期待する後ろ姿が愛おしくて、堪らなくなって、仮初めの優位で魔が差す——つい、首筋へ噛み付いた。
「うっ」
 甘噛みをしたそれから離れれば「なにを」と聞かれる。無粋で、けれど的確な疑問だった。私は思わず微笑った。
「さあ。……どうかしてしまっただけかも?」
「あ……っ」
 あなたがわたしに抱かれている。荀攸様の匂いがする。両の腕をいっぱいに占めているこの男が私の男だ。どうかしている。好んで焚く香のそれと混ざり合う汗の匂いが、私の頭を燃してしまう。
「そう、ですね。正直なところ俺が気にしているのは俺の、……この体が、柘榴殿にとって好ましいかどうかです」
「は」
「あなたに、好かれたい。俺こそ、どうかしてしまったのかもしれません。こんなことを白状するなんて」
 不意に取られた手。指先への口付けひとつ。見栄も、建前も、常識も、紡いだ糸を解くように、積み上げた石を崩すように、鼎を投げ打ってしまうように、砕けてゆく。
「ふ、ふふ、は。じゃあ、わたしたち」
「ええ」
「ふたりとも、どうかしてるのかしら」
 返礼とばかりに指先を噛まれ、吸われる。彼は末端から犯してくれるらしい。本当に、どうかしてる――
「あなたとならそれでも、構いません」

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