
これはただのセックス
興奮を覚えないわけではない――ヴェルギリウスは、自身の期待や予想よりも熱を持ってしまった息をダンテの首筋へ吹き掛けてそのまま、抵抗らしい抵抗も見せない彼の痩躯を噛んだ。
血鬼のそれとは比べ物にならないような戯れとはいえ、既に身体中を蹂躙せしめた牙だった。
<あ……ぁ、……>
与えられる痛みは、時計の針を回したときほどではないけれど。けれどもダンテは、皮膚の表皮が傷付く度に細い声を上げる。上げたところで、ヴェルギリウスにはチチチ……と針が振動する音にしか聞こえないのだが。
しかし幾度も繰り返せば、どんな愚か者でも学ぼうものだ。その壊れかけの機械のような音がダンテの喘ぎ声なのだと知ってからのヴェルギリウスは、かつてのような煩わしさなど感じなかった。むしろ、次はどんな音を聞かせるのかと思うまでになっていた。
ヴェルギリウスは、眼下でしどけなく快楽に酔うダンテを見つめる。
<なにをまじまじと見てるんだよ……>
赤い視線に見つめられていることを意識したのか今更になって肌を隠そうとするダンテの腕を掴めば、抗議かなにからしい耳障りな音が鳴った。ヴェルギリウスにはもう、そんな音すら好ましかった――この場に限って、のことではあるが。
「ダンテ?」
名を呼べば鳴り止むことを知っている。
<……ず、るいんだって……っ!>
知っているとわからされた時計が、力無く一鳴りする。
ヴェルギリウスはおとなしく(あるいは拗ねて)黙った時計のふちに唇を落とすと、ダンテのつるりとした股座に己の性器を添え当てる。
あの事件以来、男がどれほど熱を上げてもそれが伝達されることは叶わず、硬い芯を持たなくなって久しい男性器だった。勃起しないとはいえ平均よりも大きなそれが穴ひとつないそこへ擦りつけられると、ダンテはいつも“犯されている”と本能で感じ取る。相手がヴェルギリウスで、あくまでも同意の上の行為であって、本当に体内へ侵入されることはないというだけで容易く純粋な悦楽へ変換される動きではあるが、それはいつだってあまりにも性急で暴力的だったから。
誰を愛したのか誰に愛されたのかを記憶していないダンテさえ、過去を疑うほどに――――正気を疑うほどに。
<ヴェ、ル、ヴェルギリ、ウス……っあ、あ>
「ダンテ……」
<ぅあ……っ>
「ダンテ、孕むなんて、考えて――いないでしょう。ねッ……」
馬鹿なこと言うな――片隅に残っていたダンテの理性が呟いて、それから、瞬く間に消えていった。
だってこれは……。