手招きすれども猫は来ず

「おい」
 それは今日何度目かの呼び掛けであった。
 シリュウの視線の先に居る女は天井から吊り下げられたハンモックに揺られながら気怠げに視線を返すと、欠伸を噛み殺しながら再び微睡みはじめる。その態度に、シリュウの苛立ちは頂点――とまではいかないものの八つ当たりに海賊島の人間が数十名は消えてしまいそうなほど募っていた。
「……インペルダウンに居た頃は誰より勤勉な堅物だったお前が、すっかり自堕落な海賊になったな」
「…………」
「なんとか言ったらどうだ。ん?」
 少なくとも男が投獄されるより以前はこんな女ではなかったのだ。一を言えば十を理解し、何も言わずとも手足のように動いてみせた。それが今やこれだ。
「…………シリュウさん、うるさい」
 不承不承に“なんとか”言われたシリュウは思わず閉口し、愛刀雷雨に伸ばしかけた手をなんとかハンモックの紐へと誘導する。思い切り揺らしてやろうかこいつ――と睨み付けても目蓋を閉じた彼女には効かない脅しだとわかって、シリュウは少し考えるともう片方の手でザクロの頬をぎゅうと挟んだ。それで気が晴れるわけでもなかったが、少なくともこんなに潰れたこの女の顔を見たのは自分が初めてだろうとほくそ笑み、機嫌を取り戻すことに(また、海賊島の人間たちは生き延びることに)成功したのであった。

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