こいびとかわいいかわいいこいびと

 ヴェルナーは仕事が行き詰まるとザクロを抱いて解決策をひらめこうとするらしい――というのが、ハンターズギルドに蔓延る噂好きたちの信じるところであった。どうしてそうなったのかというと複雑なようで単純な“タイミング”の一言に尽きるのだが、とにかくそんな噂が流行って、なんと今日で七日になる。
「ガノトトスより大きな尾鰭が付いてる気がする……」
 三日、いや一晩で消えてほしかった。
 噂が消えるばかりか妙に広がってしまった原因は、エリックだった。
 エリックがうっかり口を滑らせて、ヴェルナーが禁足地の調査へ赴くに当たってひとつだけ条件を付けたことが知れ渡ったのだ。加えて、当の本人が否定も訂正もしなかったものだから火に油が注がれて――――
「気にするなよ」
「気にしますよー」
 ヴェルナーの気の抜けた励ましを受けたザクロは拗ねたように頬を膨らませながら、禁足地の鉱物相手に働き通しな彼のための夜食をテーブルに置いた。
 折り畳めば小さくまとまって何処にでも持っていけるそのテーブルは、火山にも雪山にも向かうことがあるザクロのためにヴェルナーが『ま、暇潰しに』と作ったものだ。薄緑色に塗装された天板といっしょに、一口大のチーズとピクルスを添えたサンドイッチが炉の炎に照らされている。
「あんたが『星の隊』管轄下のサポートハンターになれば俺たちの選択肢が増えるのは事実だろ。それに言い出したのはオリヴィアで、俺じゃない」
「……オリヴィアさんに評価されるのは光栄ですよ。でも、肝心のそこが抜けてあたしとヴェルナーさ――ヴェルナーの話にされちゃってるのがなぁ」
 ぬっと伸びてきたヴェルナーの手がシルドで採れた野菜を挟んだサンドイッチを取って、口に運んだ次の瞬間には吞み込まれる。ヴェルナーは食べるのがはやい。ザクロが急いで淹れたお茶を手渡す頃にはもうチーズが無くなっているほどに。その割に悠々とした空気を纏いながら、ヴェルナーは仄かに、見ようによっては意地の悪い笑みを浮かべる。
「まあそのうち飽きるだろ」
「だといいんですけどね。あーあ、同じ拠点に居るのやめようかな」
「なんでそうなる」
「い…………」
「い?」
 意識するから――せっかく“コイビト”へ慣れてきてたのに。
 はたしてこれを言ってもいいものか、と口籠るザクロをヴェルナーはじっと見つめている。なんとなくわかっていることだが、言葉にしてもらいたい。はっきりと口に出して、自分だけに明かして、恥じらうあまり取り乱すところまで見たい。真っ直ぐ向けられる柔らかな眼差しにまさかそんな欲が込められているとは思わずに、ザクロは躊躇いながらそっぽを向いた。

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