
あさにとどめて
初夏とはいえ、早朝は冷える。
不要なものだと切り捨ててきたデータ――その断片を拾い上げながら、眠りこけている女を見た。もしも風邪とやらでこいつの頭がバグだらけになったらオレは手も足も出せない。……考えるだけでどこかしらのギアが擦り減りそうだ。くだらないことで電子頭脳に負荷を掛けるのはやめとこう。
依然として眼下に転がるのは、リーガーとはまるで違うボディに、継ぎ目の無い滑らかなジョイント。三十六度まで表面温度を上げた片手で触れながら、鳴り響く寸前だったアラームを切る。感情回路がバカになりそうなほど柔らかい肌は、いつものようにオレの指先を喜ばせた。
「ん、んん、アーム……?」
「……ああ、起こしちまったな」
「起こしておいてよく――あったかい。なに、これ」
「冷えちまうと体に良くねえんだろ?」
ザクロが、オレを呼んだ。オレを見て、オレのことを考えている。
――これは、良い。
対戦相手の機体を破壊することで得ていたような達成感や、真っ当なフェアプレイで得られる満足感とも違うものだ。バックアップの容量を増やしておきたい。何度味わっても足りないこれをすべて、覚えておきたい。
「うー……」
再起動に時間のかかるザクロが眼を瞬かせながら惚けたくちびるを二度、三度と音なく動かす。そんな仕草すら、オレのこころを震わせる。
「蒸発の、応用……」
「ん?」
「とはいえ想定してない動作は故障の原因に……止めるべき……けど気持ちいい――ねえ、ゴールドアームの手だから?」
「よせよ、煽るようなこと言うのは」
「……違ったの?」
「朝から妙に充電の減ったゴールドアーム様をお披露目してぇのか」
「フフ。でも、どうするか決めるのはわたしじゃないでしょう」
それもそうだ。
だがそこまでわかってるおまえなら、どうなるかを思い描いて濡らすものもあるんだろう。
「……上手い言い訳を考えといてくれよ」
「そんな余裕をくれるのならね」
やらねぇよ。こっちだって余分にあるわけじゃないんだ。