
きらきら光るあなたのための
「後は彼女が。皆は……下がって構わないよ」
毅然と命じるアルハリードにメイドたちが頭を下げて部屋を出て行く。
最後尾の使用人が扉を閉めたことを確認して、……ようやく、彼の膝が折れた。それが床へ着いてしまうよりも前に身体を丸ごと抱えれば、今の彼に出来る最大限の抵抗――僅かな身動ぎを返される。
「……やめてください」
「罰されますか」
「そんなこと、……酷いな、ザクロは」
心痛を慮れば、浅はかに手を出すべきではなかった。
それでも、……それでも、浅い呼吸を繰り返す小さな私の主人を、真っ直ぐ立ってもいられなくなったあなたを、せめて柔らかなベッドに横たわらせねばならない。
丸みを帯びる頬の上、大きなおおきな瞳の下、世界でいちばん尊いひとのかんばせは徒ならぬ疲労のために暗く沈んでいる。肉体、精神、どちらも痛めつけて、彼の肉体はとっくに限界を迎えていた。
だというのに。
神は、世界は、我々は、あなた自身は、あなたの願いを叶えることがかなわない。
「先刻、帝国の騎空艇が見えましたが――取り次がなかったのは貴女の判断でしょうか」
「書簡を届けに来られただけでしたので、使いを出す間も無く」
「なるほど。他には何も?」
執務室ではなくサイドテーブルへ積まれるようになった書類の一番上に置かれた封書には、しっかりと帝国の印が押されている。
受け取ったのは、私だった。
ただの紙切れへ妙な重みを感じたのは、ひとつの予感といえるものなのだろうか。――どうか、開けないでほしい。今すぐ彼の手にあるそれを奪って、焼き捨てに行ってしまいたかった。
「……我々には、アルハリードさまの“助け”になるとだけ」
戻る道も無いのに、帰りたくてたまらない。輝くようなあなたの笑顔がうつくしい想い出の中だけのものになってから久しくて、進む道も無いのに、救われたくてたまらない。
「アルハリードさま」
「そんな表情をしなくても私は、……俺はまだ死なないよ。安心してほしい」
ただ一人を愛するのにも短い一生を、苦悩と悲哀が擦り減らしていく。生きているだけでいいなんて、幸福が約束された者たちが宣う綺麗事だ。アルハリード。あなたがしあわせにならなければ、その手に握られた私の命に価値は無いのに。