
アレキサンドライトの胎児
(御祖父様、今日も眠れないのだわ)
私と同じ色を宿した瞳が、私を優しく見下ろしている。今の私の瞼は閉じられていて、それをそれと認めてはいないけれど。
シルクシーツに沈み込んでいたはずの身体と意識は途端に緊張して、ベッドに潜り込んできた男の動きに神経を集中させてゆく。私の“御祖父様”はそれはもう立派な体躯の持ち主なので、横たわればたちまち生まれる角度のため転がってしまう私と、待ち構える彼は、自然に肌を合わせることになってしまう。本当に血の繋がりがあるのかも定かではない――秘密があるなら教えてほしいとねだってみても、御祖父様は微笑みではぐらかす。私が知っているのは、私が知っている唯一の真実は、とてもちっぽけだった。
「ポーム、起きているのでしょう?」
「……うん。ごめんなさい、御祖父様」
夜遅くまで起きているのはいけないことだと養母に言われた。その度に打たれていた頭を、御祖父様は「謝る必要は無い」と撫でてくれる。御祖父様の手は温かい。わざわざ温めてから私を撫でてくれているのだと知ったのは、つい先日、偶然に指先の触れたときだった。御祖父様は私に優しい。御祖父様は、私に特別、お優しい。その理由など、私は知らない。知らなくてもいい。
「御祖父様、今日もキスをするの?」
くちづけを教えたのは御祖父様だった。私の口に舌を捩じ込み、喉の奥を舌先で突かれて嗚咽する私の姿を見て笑うのも御祖父様だった。逆流してきた胃液の混ざる唾液を啜り、愛していると囁くのは世界にただ一人だけ。御祖父様だけだ。
「……どうかな。ポームが望むなら――」
「じゃあ、してほしい」
瞼を開けば、御祖父様の笑うのがわかった。ちゃんと私と同じ色の瞳が、垂れ込める闇の中で輝いているようにも見える。
「御祖父様、だいすきよ。ポームへいつものようにキスをしてちょうだい」
望みを言えばそのほとんどは叶えてくれる。まるで魔法使いみたいでしょうと世界中に自慢したい。
「ポーム」
――この男は、歪なりに私を愛しているのだろう。
私が知るのは、それだけ。それだけでいい。