
なんでもないよ笑
「…………チッ、俺としたことが」
不意に聞こえた舌打ちで、興醒める。
俺としたことが、なんだろうか。浮かんだ疑問ごと放置されてしまう気配を感じつつあった柘榴は眉を寄せると、そのまま無言でベッドから抜け出たばかりか素肌にジャージを羽織ろうとする鳳凰を見ながら、これは止めてやるべきなのだろうかと思案した。すると、またしても鳳凰が舌打ちを溢す。
振り返った男の眉間には先程の柘榴よりも深い深い皺が刻まれ、いかにも機嫌の悪そうな顔をしていた。何か言え、という顔だった。今度こそ「どうしたの」と言うべきタイミングだと察した柘榴は、しかし何も言わないままの方が面白くなりそうだったので何も言わなかった。
そして、痺れを切らした鳳凰が口を開く。
「ゴムを買い忘れた」
「……ああ、じゃあ」
「買ってくる」
柘榴はぱちぱちと瞬きをして「あの、鳳凰くん」と彼を一旦止めることにした。律儀に振り向いて「なんだ」と返した鳳凰は、既に財布をジャージのポケットに入れている。
「うちからコンビニ結構距離あるけど」
「構わん」
「さっき寄ったコンビニに、わざわざゴムだけ買いに?」
「ついでにポカリでも買えばいいだろう」
「それをさっき買ったのに?」
「……なんなんだ、さっきから。文句でもあるのか?」
文句というか。と、柘榴はなんとも言えない笑みを返す。日本代表のジャージはやめておいたらどうかなど、此の期に及んで言えるだろうか。