
リメンバー・チューブスクリーマー
「お嬢さん、今日は良い天気だぜ。そんな壊れかけなんて放っておいてオレと遊ばないか?」
「……イリューヒン」
いったいどこから駆け付けて――彼の場合は飛び付けて、と言うべきなのだろうか――きたのか。放熱する機体をガレージの壁に預けながら気障ったらしく手を振る機械超人を一瞥して、私は手元に視線を戻す。
小型ラジオを支えるネジをひとつひとつ戻していくのには、見た目や想像よりも集中力が必要だった。そんな肩が凝りそうなこの作業にも、もう少しで終わりが来るのだ。
「おい、ザクロ」
それなのに、こうしてちょっかいを掛けられては終わるものも終わらない。
「……あのねえ、連絡も無しに来ておいて優先してもらえると思わないでくれる?」
「なに――ッ、いつからそう生意気になったんだお前は」
「私が可愛らしかったことなんてあるかしら」
突き出された顔、生身の唇にプラスドライバーの先端を食い込ませながらそう言ってやれば、存分に歪められた表情が遠ざかっていく。2メートルを優に超えるイリューヒンが姿勢を正してしまえば、椅子に座ったままの私からは、それからどんな顔になったかなんてわからない。悔しそうなままかもしれないし、拗ねてしまった子供みたいにつまらなさそうな顔かもしれない。どちらにしろ、そうして気分を悪くした彼はいつも憂さを晴らすために空へ飛び立つのだ。だから――
「可愛いさ」
「は」
だから、まさか、そんなことを言うとは、露ほども思わなかったのだ。
「お前は、いつでも可愛いよ」
「うそ」
「嘘なものか」
「だって」
「だって、……なんだ?」
見上げても見上げてもあなたは遠いから、いつしか私は下を向くことを覚えた。見えないものだと、わからないものだと遠ざけたイリューヒンの、……私の頬に触れる手が、冷えている。あの頃、私の手を握ったまま雪原を飛んだときのように。まるでなんでもないことのような顔をして。
「オレがやったラジオの調子が悪くなる度にそうやってちまちまと直しては使い続けようとする女のことを、可愛く思わねえわけがないだろ」
「イリューヒン、あなた」
「良い天気だぜ。……オレと遊ぼう、ザクロ」