春が青なら冬は黒

 おんながひとり、泣いている。金切り声を上げたりしながら、彼女がぴったり入る大きさの、虫籠にも似た檻に歯を立てたりもしながら。
 それを見ていたおとこはひとり前触れもなく、錆び付いている檻を掴むと、ゆっさゆさと揺らし始める。枯木の枝に例えられるほど痩せ細ったおんなの体では、その揺れに耐えられる筈も無い。おとこにされるがまま揺れる檻の中でおんなはひどく困って、今度はぐずるように泣き始めた。
「……泣くほど嬉しいか、あねうえ」
 おとこは、愛おしげにそう声を掛ける。
 おんなはおとこの――雄弐の、姉だった。
 年の頃は然程離れていない。修羅場を潜り抜けてきた数だけ雄弐の方が年嵩に見られるほどだったが、二人は他人の言葉など気にもしていなかった。兎も角、おんなはおとこの姉であり、おとこはおんなの弟である。それが二人にとっては絶対的な繋がりであり、雄弐の愛情の根幹そのものだった。それ以上の理由も、それ以外の理由も無い。
「可哀想にな、あねうえ。因果だと呑み込むには酷な能力を得ちまって……」
「………………お、に」
「おお。なんだ、あねうえ。雄弐はここだ。水が欲しいか、飯か、土産の菓子もあるぜ」

「……かわいそうに、おに。おまえの姉はもう、この世の何処にも居やしないのに」

 無心に揺すられる檻の中で、白骨がからころと音を立てる。
 アレには何某かが憑いているなんて他人の言葉、雄弐はちっとも気にしていない。

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