
最初の一個と最後の一個
「目を閉じて、口を開けてごらん」
「はい」――舌先に置かれる、ころんと丸くてとろんと甘いもの。
膝の上へ跨るように言われてからずっと待ち望んでいた瞬間だった。リンゴ味のキャンディで膨らんだ頬を揶揄うように指先でくすぐられて、くすくすと笑い合う。
「いい子だ」
談笑の尾鰭を上品に翻しながら、ファビウス卿の指はそのまま私の顎をなぞり、ごくりと鳴ってしまった頸を撫で、インナーウェアの紐を弛ませる。大きく開かれた胸元にはうっすらとキスマークが残っていて、痣を付けていった張本人でもある彼は満足そうに目を細めてから同じところへ口を付けた。
――キャンディが溶けるまで。
与えられる未知の感覚に怯えることしかできなかった夜に『これが溶けたらおしまいにしよう』と口移しされた一粒。あの味を、まだはっきりと思い出せる。
「触れるよ」
そう言いながら裾を捲り上げた手は少しだけ強引に下着をずらして、私の胸をやんわりと包む。緊張を解すようにゆっくりとしてくれるから、痛みはない。その代わり、輪っかみたいにした指で小振りなおっぱいの中心に向かって搾るようにされたり、じんじんしてきた先端に触れそうなぎりぎりのところだけをすりすりされたり、もっと、という言葉を巧みに引き出そうとしてくる。
「……っは、ぁ……」
「我慢せず、声を出してごらん。つらければすぐに言うんだ」
「あぅ、あっ、はい……っ」
「それと……今日は少しだけ頑張ってもらいたいのだが、いいかな?」
「きゃんっ」
両胸の先端を同時に弾かれて、……断れるわけが、ない。
頑張るとはどういう意味なのかを聞かなくてもわかるように、ファビウス卿はにこやかなまま私の乳首を再び弾いた。すっかり硬くなってしまったそこを親指が撫でて、擦って、爪を立てる。押し潰されて悲鳴を上げた。かと思えばまた掠めるだけの触れ合いに戻って、やさしくやさしくよしよしされる。
「ぁあっ、あ、やだぁ、あっ、あ」
摘まれて、捏ねられて、胸だけの刺激で全身が震えた。粘液の出ている感覚がたまらず、だけれど下にも触ってほしいと懇願するための言葉は縺れて喘ぎ声にしかならない。確実に限界を迎えつつあることが信じられなかった。こんな、乳首だけで、……あなたに会うまで恋すら知らなかったのに!
「ああ――可愛いよ、君は。乳首を酷くされて気持ちよくなれて、本当に可愛いね。腰を揺らすのが止められないね。いいんだよ、もっと乱れて構わない」
ファビウス卿の聳立するもので持ち上げられているそこに情けなくクリトリスを擦り付けていることを、その言葉で気付かされる。布越しのもどかしい刺激すら必死に求めている、気付いても止められないでいる私を、真正面から見つめるファビウス卿の眼差しにすら追い詰められている心地だった。
「ぁあ、っあ、ファビウスきょ、ぅあぁ、っうぅ……ん、んぅ……!」
「気持ちいいかい。気持ちいいね、それでいいんだ」
痴態を肯定されている。
こんなにはしたない姿が“それでいい”わけないのに。快感に呑み込まれまいとした意識を嘲笑うように乳首を素早く擦られて喉が引き攣った。
「だめ、だめ、あっ、あっ、ファビウスきょ、う、ゆるして、やだ……っ」
「ザクロはいい子だ。いい子は、上手にイけるね?」
「あ゛ッ、あ、ぁ――! イ、く、ぃ……ッッ!」
口の中で、甘すぎる時間が溶けていく。
溶けてしまった――――
「卿……」
これでおしまい、なんて顔をしながら私を解放しようとする男の身体に寄り掛かる。あなたのいい子は、とっくにわるい子だ。だから、……。
「私、……目を閉じて、口を開けて、いいですか」
「…………っ、それは」
「いい、ですか?」
もしも私を果実のように切り開いてみたならば、果てない欲が蜜のように溢れ出てくるのかもしれない。ファビウス卿は眉間に皺を寄せながら私を見つめ、精一杯の笑みを湛える。その理性に私は護られてきた。その優しさが堰き止めてきたあなたの欲が、甘く、匂い立つ。
「……そんなに、欲しいのか」
ファビウス卿の視線がキャンディポットに向かう。ガラスの瓶にたっぷり詰まっている色とりどりのキャンディを、私も見つめる。面白可笑しく歪んだ私たちが反射していて、最後の一個はあなたがくれた最初の一個とおんなじ味がいいなと思いながら、私だけが笑った。