
無実の罪で君を飾れば
『……私が殺しました』
女のことばは一時間足らずで世界中に広まった。
誇張された見出しの記事が流れる頃にはニュース番組が頼んでもいないというのにストーリーを整えて、無知蒙昧な群衆は当て推量で物を言い募り、稀代の悪女などという物珍しい冠は当然、世論に死刑を求めさせた。
夥しい数の悪意に曝されながら女を乗せる滑車は、敷かれた軌道を滞りなく進んでくれる。
終着点――――私が手を差し伸べるに至るまで。
「新しい顔は気に入ってくれたかな、柘榴」
呼べば、僅かに面影を残す顔が振り返った。
やはり君には窓辺が似合う。そのまま佇んでいればよかったものを、柘榴は頭を下げてから此方にやってきた。
「挨拶が遅れてしまったことをお詫びしよう。とはいえ、貴女は既に事の次第を理解しているようだ」
表向きの、だが。
私を見上げる柘榴の瞳は、利口にも怯えている。間近に見るのは獄から連れ出して以来だった。術後の経過は順調だと聞いていたが、よくよく見れば僅かに腫れているような気がしなくもない。痛みはあるかと訊ねてみれば首を横に振った。
「……おや、まだ声帯はリハビリテーションが済んでいなかったかな。私も気が急いていたようだ」
身を屈めて、俯いてしまった柘榴の手を取る。離れることは許さなかった。指先を握り込んで「冷えているね」と言えば強張ってしまう肩も、まるで子羊のようにとまどい震える脚も、先程から騒々しくしているその心臓も、もう、すべてが私のものなのだから。
君の瞳は綺麗だ。涙が滲んで、光り輝いている。
君は昔から脆くて、うつくしい、宝石のような子だったね。
――裕福だが子の居ない篤志家へ養子として薦めた。
束の間の夢は心地の良いものだったはずだ。幸福を信じて迎え入れた娘が不幸を招いたかのように、少しずつ“アクシデント”を増やしていく。長く援助してきた福祉団体の虐待行為には胸を痛めたことだろう。親族の連続不審死には、奥方が目に見えて窶れたと聞いている。疑心の種を綺麗に芽吹かせるため、食事には栄養剤を混ぜさせた。彼等は見事になにも知らない君を疑ってくれた。
…………笑いが、止まらなかったよ。
育ての両親を殺した君を、得た筈の愛を喪い、悼むことも赦されず、道に迷って泣いているだけの君を、破滅を呼ぶファム・ファタールなどと称する者も居る。
そんな君が欲しかった。
この世に君が居たものだから、……欲しくなった。
「新たな生のためだ。名も、新しくしましょうか」
柘榴という名も似合っているよ。だが、君にはもっと相応しい名があるはずだと考えていたんだ。あの日から。そう、あの時――孤児院の窓辺で閑かに佇む君と目が合ったときから。
……ああ、君も気に入ってくれるといいが。