
HOTBED
「ザクロ、ディクシアからの手紙だ」
「まあ。……忙しいのにありがとう、アリステラ」
「姉の顔を見るだけでも言い訳の要る立場になってしまったものでな」
冗談めかしてそう言ってやれば、嬉しそうな――そして寂しげな微笑みを浮かべる。一族の誰とも似ていない突然変異。なだらかな凹凸で造形られた横顔の柔らかなこと。それを間近に見ることのできるのは、弟でもあるオレの特権だった。
ザクロは今まで、表情という表情を父にも母にも見せることなく生きてきた。……オレたちにもだ。それでもオレたちは、オレたちのどちらにも似ていない姉のことが大好きだった。不義の子を疑われながら産声を上げ、異物として扱われることを避けられず、しかし身も心も美しく育った姉は、オレたちを当たり前のように愛してくれた。
アリステラもディクシアもない、無償の愛を感じられる慈しみの眼差しはいつでもオレたちに等しく注がれていて、だからオレたちは笑顔なんか無くたってザクロのことが大好きだった。
だからオレたちは、ひとりの女を奪い合わなければいけなくなった。
この、憎しみを受け継いできた血と魂を、宿命を抱える我が身を癒せるものはこの世にたったひとつしかないのだと理解っていた。そう――ザクロだけだ。オレたちは彼女以外をなにも知らなかったし、唯一無二の代わりになるようなものを見つけようともしなかった。
「アリステラ、食事を抜いたりはしていない?」
「ああ」
「怪我や病気を我慢してもいない?」
「まさか」
「最近はしっかり眠れているの?」
「ああ。……ザクロ、心配したいのはこちらなんだが」
お前を愛している。オレたちは、お前を愛している。
「……ディクシアも、元気だといいのだけれど」
お前に愛されたい。
いや。愛されているからこそ、オレだけを愛してほしいと欲してしまう。
遠い星に想いを馳せる、ザクロの横顔――抱き寄せてしまいたかった。腕の中に閉じ込めてしまえば、ああ、小さく、か弱く、偉大な姉よ。血に濡れる定めに在る我が手に残るものは貴女だけでいい。オレたちはきっと、貴女さえ居ればそれでよかった。