
抱くか殺すか選べるものか
碗よりも重いものを持ったことなどない柘榴の手が、オレの顔を無遠慮に撫でる。子供が玩具を乱暴に弄ぶように、仕立てたばかりの眼帯を興味深そうに探り、顔中をぺちぺちと叩いて、ようやく気が済んだかと思えば一言――「なんだかちくちくするわ」と、不満げに小さな唇を尖らせた。
「殺し屋として舐められたくはねぇからな、髭を伸ばせば貫禄が増すだろ。おかげで見せられないのが残念なほど男前になっちまった」
「父上のお顔には無いのに」
「そりゃおめぇーが渋い顔したからだ。あれから気にして剃ってんだよ、どうにもあの人は姉上に甘い」
そうなの。呟いて、元から見えやしない目を閉じて記憶を手繰り寄せようとする姿はとても、とてもじゃないが一族の女と思えなかった。何も知らないやつが見れば、こいつが産湯代わりの毒液に耐え、母乳に混ぜられた毒にも耐え、朝昼晩の毒薬を喰らい続けた、蝮を産むための腹を持つ女だとは、夢にも思わないだろう。
生来の盲目が無ければな、と惜しんだ父親の横顔が浮かぶ。いくら天賦の才があろうと、不純物を厭う蝮一族にとっては玉に瑕だ。…………知ったことか。
「せっかくだ、もっと触ってくれてもいいんだぜ」
言いながら柘榴の白い頬へ顔を寄せれば、くすぐったいと身を捩って逃げていく。悪戯心が誘われるまま生え揃えた髭を柘榴の首筋へ擦り付けると、堪らなくなったのか笑い声を上げ――オレの胸元へ、飛び込むようにやってきた。年頃の女が放つ色香と、それを裏切るような子供じみた振る舞い。この人はいつもいつでも変わらない。オレは、そんな柘榴のことがいつだって愛おしい。
「……本当に、もう行ってしまうの?」
「ああ」
「寂しいわ」
「オレもだ」
「だいすきよ」
「…………ああ、オレもだ。姉上」
お前は、血と肉がまともでないだけの、沈黙と暗闇が嫌いな可愛いばかりの女だ。背に回された腕。その温もりが、途方も無く憎い。いっそ同じだけの毒が流れるお前の胎内からオレは生まれてきたかった。
そうすれば、それでも、オレはお前を愛しただろう。