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宝石のようなひとだった。パルデア地方で見られるという現象――テラスタルのようにきらめいていた。光のなかでも、闇のなかでも、遠く、離ればなれになってしまっていたときですら。
目に焼き付いて消えないきらめきは、笑みを湛えておれたちを呼ぶ。
「おかえりなさい、グリ、グリーズ」
――――ああ。
仄かな温もりを覚えながらドアを後ろ手で閉じる。グリーズが抱き締めるに留まらず頬にくちづけするのもいつものことだ。当たり前に受け入れている彼女と目が合えばウィンクされることも。
おれは、これがどんなに得難いものなのか、決して忘れてはいけないのだ。
「遅かったね、ふたりともお疲れさま」
「ただいまクルール、お土産あるよ。ほら」
グリーズがクルールを解放して、おれの手元を見るように促す。掲げなくてもわかるだろう。予想通り、見る間に破顔した彼女が「ミアレガレット!」と嬉しそうに声を上げた。
「いったいどうしたの?」
「常連さんがさ、食べ切れないからってわたしらに。な、グリ」
グリーズが振り返る。おれは「ありがたいことですね」と言って二人分の視線を躱し、ガレットと持ち帰った売れ残りのコーヒーと仕事道具をキッチンへ置きに向かう。
クルールはいつもこの売れ残りを飲みたがる。おれとグリーズがどんなに嫌な顔を見せても、夜中や早朝にこそこそと冷蔵庫を開けるその姿――淹れたてなんていくらでも用意してやるのに、これがいい、なんて言い張って。
「じゃあガレットもあるし、紅茶でも――」
だからおれたちは一計を案じた。
「ガレットはまた明日。もう休みたいよ」
きょうだいと戯れるシシコのように、グリーズはクルールの後ろから。
「今日はロワイヤル参加者のお客さまが多かったんですよ。だからこんな時間に」
おれはクルールの前に立って、スマホロト厶へ合図を出す。あらかじめ彼女のスマホロト厶を誘って充電に行くよう言っておいた。
「そ、そう。じゃあ……」
「クルールが真ん中」
「賛成です」
最初からこうすればよかった。クルールはふいうちから立て続けに弱点を突かれるのによわい。たまにはグリーズが思い付く“いいこと”へ従っておくものだ。と、おれを見上げる彼女が顔を顰める。
「ねえ、それってまた起きたらぺったんこになりそうなくらい挟まれてるなんてことにならないよね」
……怪訝な顔をしてなにを言うかと思えば、そんなこと。
こわいかおのつもりなら意味が無い。グリーズが笑いながらクルールの腹に腕を回す。おれは緩まっていく口角を制御できない。
「どうでしょう。グリーズに頼み込んでみては?」
「グリにもな」
「ええ……いったいどれくらい頼めば入れ替わってくれるの」
「……さあ、おれにはわかりませんね」
「朝までかかるってさ」
グリーズの言葉にクルールが笑う。おれたちが笑うのに誘われてボールもかたかたと揺れる。ここにあるすべてがきみのことを愛している。
「もう。ふたりともどうしてそんなにわがままに育っちゃったのかな」
聞いてくれるのを待っていた。グリーズがそわそわとしながら腕を伸ばしておれの指先に触れる。おれから?――まあいい。
「おれたちがこんなにわがままなのは、きみにだけですよ」
「そう、きみにだけ」
だからもうどこにも行かないで。