
翼のない鳥、鰭のない魚
海岸へ流れ着くものに意思は無い。
辿り着いた無辜のものたちは、無辜ゆえに自らの手段を持たない。誰かに拾われるか、再び攫われるか、風化するか。
桟橋で釣り糸を垂らしながらただ見つめる風景に、劇的な変化を期待するつもりは無かった。それでも、ひまわり諸島の蝶の羽ばたきがミネラルタウンで竜巻を引き起こす可能性を誰も否定できはしない。と、わたしは信じていた。かつて誰かのものだった空き瓶を手に、か細く吐いた自嘲混じりの溜め息は誰の耳にも届かず消える。
消えていく、はずだった。
「あいや。クレアさん、よくないある。運気を逃すつもりあるか、もったいないあるね」
「……ホアンさん? 営業中にどうしたんですか」
「たれも来ないあるから、気分転換ね」
そう言いながらわたしの隣に腰を下ろすホアンさんの視線は、波の音や海鳥の声など意にも介さない様子で町から続く道の方へと向けられている。――いつでも小屋へ戻れるように、か。本当に外の空気を吸いに出てきただけらしい。
「はは、釣れてないあるか」
頬杖を突いて空のクーラーボックスを指差したホアンさんに、今さら誤魔化すこともないと素直に頷く。彼は、自らの足でこの町に来た。立派な人間だと思う。わたしは違う。疲れ果て、そして、流されるように此処へ辿り着いた。この空き瓶のようなものだ。富士壺が固着した瓶も綺麗に洗い花を活けてやればそれが役目になる。わたしは人間なので、花の代わりに土地を手に入れた。それが役目になると信じて。――結果として同じように居着いているわたしたちでも、彼とわたしの間には隔たりがあり、加えてわたしには勝手に感じる引け目があった。余所者たちが集うこの海岸でさえ、わたしはひとりにならざるを得ない。
そうするべきだ。そうあるべきなのだ、きっと。
遠くからやって来たこの男は、いつか遠くへ去っていく。抱えられるだけの大事なものを持って。わたしは、違う。…………わたしにはもう、此処から何処かへ行くようなことはできない。そのことに感じるものは、悔しさじゃない。悲しさでもなければ、ましてや怒りとは程遠い。
けれど、答えも見つかりそうにない。このままじゃ――
「クレアさんの釣果とわたしのお客、どっちが多くなるあるかなぁ」
「賭けます?」
「クレアさんがなにか買ってくれればいいたけの話ある」
「手持ちがありませんよ」
「知ってるある。言ってみたたけあるよ」
来ない客、釣れない魚。海面を跳ねた魚にさえ見向きもしなかった男の視線はいつの間にかわたしに向けられ、わたしはそれに気付かないふりをしながらぴくりともしないウキを見つめている。動かないわたし、動じないおとこ。きずつかないための言い訳を買うにはなにもかもが足りなかった。