
ソロダンス
空の王者、リオレウスの延髄が燃えている。
衰えることなく燃え盛る炎と共に立ち上る生命の匂いを吸い込めば、心臓に火竜の爪が食い込んだような錯覚を起こす。瞳を閉じれば咆哮が聞こえ、呼吸を止めれば身体中に痛みが走る。死後も潰えることのない竜の力はいつだって素晴らしく、言葉に尽くせず、他に変え難い。悲しいことに、終わらせるのが勿体無いほどの心地良さに浸っていられるのはほんの僅かな間だけで――「おーいザクロ、戻っておいで」こうしてすぐに引き戻されてしまうのだけれど
「……声を掛けるのが少し早いんじゃない?」
「いいや、いつも通りだよ。キミがトリップしすぎなだけ……もしかしてまた混沌茸を食べたんじゃないだろうな、アレは体に悪すぎるって何度も」
「何度も聞いてる。大丈夫、しばらく口にしてないよ」
「しばらくだって?!」
そもそも食べないでくれって言ってるんだ――生きたにが虫をそのまま噛んだような顔をして、バハリが溜め息を吐く。その後ろを研究員のアイルーが「今日のザクロさんはドキドキノコを食べてたニャ〜」と言いながら通っていったものだから、彼の眉間に深い皺が刻まれた。
「提案なんだが、今のは聞かなかったことにしないか」
「しない。できない。土下座されたってするもんか。あー……タドリといいキミといい、放っておいてもちゃんと調理されたものを食べてくれるだけフィオレーネのことがすっごくマシに思えてくる」
「ああ、彼女はしっかりしているからね……フフ」
「キミと比べたら遥かにそうだけど、疎かにしている方なんだよアレは。いいか、エルガドの人間を基準にしない方が良いぞ。絶対にだ」
「そうか。そう……ン、フふ……」
「ちょっと、ザクロ?」
耐えきれずに腹を抱えて笑い始めた私の顔を、ドキドキノコの影響かと心配したらしいバハリが覗き込んでくる。食べたと言っても昨日のことなのに。あのアイルーもネコが悪い、今度資料の順番を滅茶苦茶にしておいてやろう。
「おいったら、ザクロ、聞こえてるのかい」
バハリの声に焦りが見える。
あれだけ物知りだというのに今だけは何もわかっていない彼の純真で無意味な気遣いがまた可笑しくて、ついに笑い頽れた私は――「ザクロッ!」バハリの腕に、抱き止められる。お前がただの変人であればよかったのに。そんなことする必要なんて無かっただろうに。お人好しの両腕から力が抜けていくのを感じながら、再び私は笑いの波が押し寄せるまま声を出した。
「ハハ、ハハハハッ、ああ……もうだめだ、バハリ」
「はやく解毒を」
「いや……いや、大丈夫なんだ、バハリ。竜人が人間の健康やら何やらを気にかけるのが、面白くなってきて、フッ、ハ、アハハハハ……ッ!」
「……キ、キミってやつは……」
深い溜息が吐かれるのと共に、バハリの腕から緊張が解ける。彼は私を抱き止めた格好のまま「心配させないでくれ」と言って、離そうとしない。なんとも贅沢な寿命の使い方だと思いながら、私はバハリの体から離れる。離れようとして、押し退けた彼の、その下がった眉ときたら!
「お前。私があのまま死ぬと思ったのか、バハリ」
答えない。
「答えろよ」
「そうだ。キミが死に急ぐから」
「研究家の性に従って生きてるだけだ」
「竜に傾倒しすぎてる」
「ああ……。私の亡骸にもあれだけの力があればよかったな、無いからそうやってお前が口煩くなってしまう」
「滅多なこと言わないでくれよ、そんな」
「だって亡骸の一部さえあればいつだって思い出せるようになる。……本当に竜は、素晴らしいよ」
「見くびるなよ。忘れるもんか」
「どうだか」
「好きなんだ」
「それこそどうだか」
いきなり気色の悪いことを言うなよ。
そう言ってまた笑い出してしまった私のことを、バハリは顰めっ面で睨み付けている。