煙となって

 はおうまる・・・・・と名乗った男が、どうやって此処のことを知ったのか。
 聞きそびれた、と独り言つ私に向けられる怪訝そうな瞳に微笑みだけを返せば、顰められた顔のままそっぽを向かれた。
「幻十郎さん」
 どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。藁莚の上に散らばるその赤い髪に向かって、「げん、じゅう、ろう、さん」と童のように四つん這いで近付いてみれば、煩しそうに睨み付ける両の目が私を出迎える。
「ふふ、こわいかお」
「…………」
「……幻十郎さん、痛いところはない?痒いところは?」
「……あったところで、誰が貴様に言うか。阿呆めが」
 余計な一言への報復に軽く覆い被されば、呻き声。そしてぎこちない動きで持ち上がった腕が、手が、私の肩にかかり――引き剥がすでもなく、力が込められる。
 あの日。
 生と死を行き来した幻十郎さんは、不可思議なことにこうしてこの世へ留まった。けれど、…………血が、流れすぎたのだろう。凶刃のようなぎらつきは失せ、今日のように陽が沈むまで伏せっていることも珍しくない。面影すら掴めないほどにこのひとは変わった。……はおうまる。あの男が、本当に覇王丸だったのだとして。この人を殺すなら殺していけと、泣き崩れて半狂乱になればよかったのかもわからない。
「幻十郎さん。――好きよ、私、あなたのことが」
 取り戻せるならなんだってできるはずなのに。
 振り解こうと思えば簡単な腕の中にあなたがいる限り、わたし、きっと、なにもできない。

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