かわるがわる不幸になってく

 歯軋りの音で目が覚めた。眉間に皺を寄せながら手足を縮こませたり、腕を伸ばしたかと思えば何かを払おうとしたり、日頃ルシスの将軍として奔走するドラットーが夢の中でまで忙しくしているのはいつものことだった。不規則な息継ぎ。不明瞭に呟かれる謝罪の言葉。律儀に苦しんでは何事も無かったように目を覚ます。
 話してほしい、とは、言えないでいる。
 私がそう言ったところで何も話してはくれないという確信があった。なんでもないんだ、と困ったような笑みを添えて返されるだけだ。いくら肉体を繋げようが、何度も何度も果てを見て、すべてを見せてきても、私たちは心を明け渡すのを恐れたままの関係だった。――私がこの人の抱えるものに気付いていながら触れないように、この人も私の抱えるものに気付いていながら触れないで、愚者の真似事に興じてくれていた。居心地が良かった。だから今更、……今更、私はどうしたいのだろうか?
「……ドラットー」
 こうして名を呼ぶことにすら慎重になっているのだから、この先になんてとても進めない。そんな女がお望みならば、いくらでも臆病になれる。そんな女はお呼びでないなら、一度も抱かずにいてくれたらよかったのに。
「ドラットー、だいじょうぶよ」
 囁きながら。祈るように傷痕が点在する肌を撫でてみれば、ほんの少しだけ男の表情が和らいでいく。数時間前までは無慈悲な支配者オスの顔をしていたくせに。普段の振る舞いからは想像もできないけだもののような交わりや、一転してちっぽけで憐れな姿。すべてがあなた、私が知るあなた――――
「ドラットー、ねえ、……」
 きっと、他にもあるけれど。“それ”ごと愛せると言える自信は無く、この人も、私にそんな期待などしていないだろう。そう思わずにはいられない。
「……ぁあ、ザクロか……?」
「早出の予定って言ってたでしょう、そろそろ起きないと。私のシャツはどこに投げちゃったの?」
「もうそんな時間なのか」
「ええ、もうそんな時間。あっという間にね」
「そうだな。……ああ、そうだ。本当に……」
 あなたが幸せな夢を見られる日は永遠に来ないかもしれない。
 それとも、幸せな夢こそがあなたを苦しめているのだろうか。
「どうしたの、ドラットー」
 考えても仕方の無い、いや――どうにもできない。放り投げられたブラウスのように、くしゃくしゃになるだけのこと。ドラットーは静かに私の顔を見つめて、はじめて触れるだけのキスをする。そうして、まるでこの世の終わりが来たかのように私へ告げた。
「すぐにこの国を出るんだ、ザクロ
「……こんな日に?」
 男は、終ぞ身体以外のなにも求めようとしなかった。
「ああ。そうだ。頼むから、……何も聞かずに」

 とうに手遅れなのだろう。

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