
夜も荒野もひとりじゃないから
薬草園の匂いがする――ぼうっとする意識でそんなことを考えながら、ダークアージは匂いの元へ顔を擦り寄せた。頭上でなにかを耐えるように細く息を吐く気配がしてそっと見上げてみれば、「かわいいな」と耳を優しく撫でられる。ハーフドラウの耳は他の種族より幾分か感じやすいのだと教えてくれたのは目の前の男だった。そんなことあるんだろうかと疑いながら耳だけで絶頂を迎えそうになったのは、他でもない自分だった。
男へ掛ける言葉として相応しいものだろうかと思うところはあるものの、毎夜のように囁かれてきた言葉はしかし、既に半分ほど蕩けていたダークアージの頭の中身を完全に溶かす。
下着越しの陰茎は頬から与えられる緩い刺激に反応を返していて、ぴくぴくと動くそれを口に含むことへの躊躇いはもうとっくに失せていた。柔らかな急所に歯を軽く突き立てて、器用に唇で挟んだ布を少しずつずらしていく。やりやすいように腰を浮かしてやるだけの理性を残したハルシンの眼差しはいつもと同じ穏やかさに見えて、その実は激しい欲に縁取られている。そんなことには気付かないまま、ダークアージは解放された陰茎へ舌を伸ばして根元から先端を舐め上げた。草の匂いと獣の匂いが混ざった香りが鼻腔を満たす。それからあっという間にハルシンのものを喉の奥まで咥えてしまうと、彼の初々しい恋人は得意げに目を細めて口を窄め、緩やかに頭を上下させる。まだ拙い技巧を褒め育てるように声を上げる大男の反応を見つつ、ダークアージは自分の後孔に手を伸ばした。
「ん゛っ、ん……♡」
ハルシンの指とは比べられないが、彼のものを入れるための準備には事足りる。流暢に物を言う喉を陰茎の先端で潰すことも厭わず、淫猥な孔をくちくちと鳴らす指は数刻前まで観衆を夢中にさせる曲を奏でていたというのに、今の姿はまるでただの男娼だ。覚えたての媚びを売っている。
きたないことばかりを考える――悩みを打ち明けてきたときからは想像もできないほど幸せそうにも見えた。束の間にしかならないのだが、誰かを殺しに行くよりも男に犯されることを望んでいるのだ。
「ダークアージ、そろそろ……」
多幸感と共に射精の予感を覚えたハルシンは、嬉しげにしゃぶり続けるダークアージへ離してくれるよう頼む。
しかし、動きが止まると共に返ってきたのは意外な返事だった。
「待て」
「……なに?」
「……待てだ、ハルシン。俺の中で出してくれないと」
名残惜しそうに陰茎をひと舐めしてからにやりと笑ったダークアージは、片眉を上げたハルシンの上に跨がって「ほら、ここだ」と自身の下腹を指差しながら腰を下ろす。
「ああ――――お前が望むなら」
ハルシンの自制も限界だった。
この体勢なら体の重みが手伝うとはいえ、平均よりも遥かに大きなものを挿入するのは難しい。焦れったさを楽しむのは次の機会だと思うが早いか、ハルシンはダークアージの腰を掴むと狙いを定めて一息に先端から半分を埋めてしまう。
「あ゛ッ――〜〜ッッ♡」
「すまない、俺としたことが急ぎすぎた。正直つらいが……お前が落ち着くまで待とう」
「かま、わな、……っうう、おっ、き……」
「無理はするな。今日は……俺も少し、興奮している」
「すこ、し。はは、……ん……っ、もっと、してくれないと……♡あ、あ、ハルシン、まだ動かすな……あっ♡」
ダークアージから甘い声で非難されようと、ハルシンはまったく気にしない。ひとりでに動いている腰の責任を押し付けられようが、ハルシンは笑って受け入れる。快楽に溺れやすいのは生来のものだろうが、“今”のダークアージをこうしてしまったのは己なのだという自覚があった。
「だが、っ……こう、して……やる方がッ、良さそうに見えるな……」
「それは……ッ♡♡ん、んぁ、あた、あたりまえっ、で♡だめ、クる、まただめになる……っっ♡♡」
残りの半分を挿れるため少しずつ奥へと侵入しながら突いてやれば、ダークアージは愉快なほど声を上げて悦んだ。息継ぎのように止めろと言いながら、この状況で止められないのはダークアージの方だ。
それを知っているハルシンはすべてを請け負う代わりに遠慮無く自身のすべてを捩じ込み、断りを入れることも労わることもせず荒々しく突き始めた。どこをどうされれば泣いて喜ぶのかについては、ダークアージよりもダークアージに詳しいと言い切ってもいいほどだった。
「あっ、お゛、ぉ……♡♡あ、あっ、熊の、ちんぽじゃないのに、ぃ゛――ッ♡♡♡」
「はっ……こっちも癖になってきたか?」
「うぁあ、あ、いく、いってる……なんでぇ……」
ダークアージの陰茎はなにも吐き出さないまま、その体は過ぎた快感に震えて戸惑う。絶頂した。していない。気持ちが良い。出ていない。不出来な脳から発信される情報と視界から受け取る情報の齟齬に苦しみながら、ダークアージは再びはしたなく喘いで、効果も無いのに逃れるように頭を振った。
「大丈夫。大丈夫だ、ダークアージ。その衝動は安全だ、身を任せて――」
「ハルシン、ハルシン、いっ、また♡♡だめ♡♡」
「ダークアージ、ダークアージッ、俺も、このまま……っ」
「ハル、し、だめ、めすいき♡とまんな……とまらな、くて、おかしくなる、だめになっちゃ、う、あっあ、あ゛ッ♡またいく♡いく♡ハルシン、すき――ッ♡♡♡♡」
望み通りにダークアージの中へ射精する頃には、ダークアージはもう自分がどんな挑発をしたのかも覚えてないほど放心していた。種を根付かせるようにぐりぐりと押し付けているうちに硬度を取り戻しかけた陰茎を慎重に引き抜き、ハルシンは深く息を吐いてにこりと微笑む。
「……少し休むとしよう、ダークアージ」
少し?――朦朧とする意識では掛けられた言葉を繰り返すことしかできない。しかし、それで良いのだろう。