
夜風みたいにやさしくしてね
灰青の尾が揺れて脚に絡み付く。拘束とも呼べないそれの先端が内腿をくすぐり、ハルシンは小さな声で「どうした?」と聞いた。途端に去っていく細い尻尾は定位置まで戻ると反省でもするかのように垂れたのに、持ち主である女はくすくすと笑うばかりで何も答えない。新しい恋人――ダークアージには悪戯な面もあるのだと覚えたばかりのハルシンは、お返しとばかりに彼女の耳へ口付けを落とす。体を重ねたのはまだ片手で数えられるほどしかなかったが、敏感なことはよく知っている。非難するような目で見返されても可愛らしいだけなのだと言ってやればどんな声で否定するのか、それとも。そこまで考えて、ハルシンは自らの手がいつの間にかダークアージの腰へ添えられていることに気が付いた。無意識に抱くほどだったかと思いながら、今度は従順に胸板へ頬を擦り寄せる女の額へと口付ける。そして惚とした溜め息を吐くと同時に、ダークアージの肩を掴んで己から引き剥がした。
一拍置き、見上げてくる彼女は案の定にやにやと、まるで大人が悪い仕掛けに驚くのを今か今かと待つ子供のように笑っている。
――魅了をかけたな。
窘める気になれないのは惚れた弱みか、導師とも呼ばれた男がただただ都合の良い流れに違和感も覚えず、魔法へ呑まれかけたことを多少なりとも恥じたからか。混ぜ合わさった苦い思いは顔に出たが、ダークアージは当然と気にしていないようだった。
「お前は囚われの身になるのが得意すぎて、時々心配になる――こんな手に引っ掛かるドルイドを野営地へ置いたままにしてはおけない、レイゼルと交代してもらおう。ああ、それと」
私には、くれぐれも気を付けてくれ。
そう言い残して飛び立つダークアージの尾を掴み損ねて、ハルシンはそのまま額に手を当てた。彼の新しい恋人は、不器用なところもあるらしい。