オペレーションエラー

 いつ振りかの(すっかり忘れてしまったが、齢のせいだとは思いたくない)アンドロイドに対する暴力的な言葉が口を突いて出そうになり、ハンク・アンダーソンは淹れたてのコーヒーで無理やり己の口を塞いだ。
「舌先を火傷されましたね」
「……誰のせいだ、誰の」
「さあ。……僕ですか?」
 いつの間にかとびきりに腹の立つ仕草を学習したらしいコナーが肩をすくめてとぼけながら真横の人物へ問いかけた。その人は、ハンクから見ればまだ新品同然な制服の袖口を不安げに握って眉尻を下げる。困らせるんじゃねぇよ。と、胸中でぼやく。
 ――相棒曰く、恋人候補。
 コナーの、ではない。コナーの、と付いてさえいればハンクが舌を火傷することはなかったし、喉がひりひりとする感覚に顔を顰めることもなかった。問題はそこなのだ。あろうことか、この変異体のアンドロイドは自分の判断でハンクの恋人を探し――重ねて勝手に、ご丁寧に、仲人気取りで見合いをセッティングしてしまった。
ザクロさんとの相性はほとんど完璧と言って差し支えないでしょう。口頭の説明だけでは不安でしたら詳しいデータをお送りしますから――」
「え、遠慮するよ、コナー」
「はい、わかりました。必要になればいつでも仰ってください!」
 そのファッキンデータを捨てろ。とハンクが怒鳴りつけるよりも先に、ザクロは「気持ちだけ貰っておく。せっかく作ってもらったところ悪いけど、そのデータは要らないかもね」と言って微笑んだ。
 コナーは「そうですか?」と食い下がろうとしたが、「ザクロの言う通りだ」というハンクの言葉に――恐らくは、二人が自分に感謝していて、何より同一の意見を持っているという相性の証明が為されたことに満足して――素直に受け入れたようだった。
「では、僕はお邪魔してはいけませんので」
「え。待ってよコナー」
「ダメだ。ああなったら言っても聞きゃあしねえ」
 ザクロはお決まりの文句を最後に去っていったコナーと困り果てて立ち竦むハンクを交互に見て「じゃあ、私たちがここで解散しても意味が無いんですね?」といきなり核心を突いたことを言うものだから、ハンクは口籠ったまま再びコーヒーに頼ろうとして、手を止める。
「そう思わせるのもあいつの作戦だったりしてな」
「いっそ乗ってみますか?」
「バカ言うな、俺とお前じゃほら、なんだ……仮だとしても世間の目ってもんがある」
「アンダーソン警部補が言うことですか」
 そう言ってくすくすと笑うザクロは少しだけ皺の入った袖で口元を隠しながら、気まずそうに顔を背けるハンクの丸まっていく背中を飽きるまで見つめていた。

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