燃えるは赤い、赤いは燃える

「妊婦なんてよお、根こそぎ集めても限りがあんだから」
 ――――まことに。
「こうして、増やせば、いいってのに、なッ?!」
 誠に残念ながら、彼女が母胎として機能を果たすことはないだろう。
 以前まで大勢の人間ムシケラが行き交っていた道の真ん中で凌辱されるそのむすめは、まず足の小指を奪われた。よたよたと逃げ回るのをカラスが弄びながら追ったものだから、髪がまだら・・・に禿げている。幸の薄そうな顔に似合いの悲鳴を上げながら膝から下を切り落とされて、今は胎に無駄な種を注がれている。
 そこに意味は無い。私もそれに理由を求めてはいない。
 柳生宗矩の気まぐれに巻き込まれただけの彼女は、はて、その腕はいつ折られたのだろうか。動くところと残ったところだけで暴れてみせるが、呆れを通り越してよくまだ生きているものだと感心する。握り潰された乳房が鬱血し、数羽のカラスがそれを嘴で突く。宗矩は腰の動きを止めないまま器用におんなを刻んでいった。
 嗚呼――――それにしても、厭になる。
「たずげ、……たす、こ、……て」
 懇願してもどうにもならないことだと、なぜわからない?
「助けてほしいんだってよ」
「そのようで」
「では御見解をどーぞぉ、柘榴殿」
 柳生宗矩の気まぐれに巻き込まれただけの私は、けれど、溜め息を吐きはしなかった。彼の機嫌の如何については任務の範囲外でも、むやみやたらに損ねることでより面倒な思いをするのは御免だったからだ。私は流れる雲に興味が移った振りをしながら、天を仰ぐ。
「わざわざ貴方が畑を耕す必要も、種を撒くこともありますまい――としか」
 幻魔界でもこうしていた。
 見えるものは大きく違い、感じるものもまた違った。あの頃は地上に夢を見ていた。それなのに今の私は、クローディアスによって彼の首へ結ばれた縄に過ぎない。ただ殺すだけではつまらない狂犬を目の届く範囲に留めておくだけの縄だ。ははは。縄だと。高等幻魔として生きてきてこれほど屈辱的なこともない。
「……ところで宗矩殿。そろそろ刻限かと」
「わぁーってるよ……あ?」
「なにか」
「おい、おいおいおい、死んじゃってるじゃねえか」
「……――左様ですか。残念です」
 はて、彼女はいつ事切れたのか。宗矩の手で前後左右に弄ばれている頭部からは血色が失せて、歪みきったまま固まっている。……だが。
 だが、その頬に口付ける男は気にもしていない瞳だけは、最期の憎悪を宿したまま煌めいていた。幻魔樹の美しさと源を同じくするかがやきだった。生きてさえいれば、さぞ――過ぎたことゆえ、惜しんでしまう。しかしやめよう、ああけれど、よりよくくるしめられたのに。イカレ野郎め。
「ほんっとに残念だ。アンタに似てる女だったのに」
「御冗談を」
 …………イカレ野郎め。

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