ピリオドより

「お、……俺の、子なのか?」
 瞬きすらも忘れて、パメラの腕の中で眠るものから目を離さない男は唇を震わせながらそう言った。そう言ったようにも聞こえた――実際、グレゴールの口からは言葉らしい言葉が出ていなかったのだから。
「心当たりが?」
 パメラの言葉に、グレゴールはいつもより深く重い溜め息を返す。生身の左手で眉間の辺りを揉みながら、日常生活用の義手でマグカップを取った。コーヒークリーマーがたっぷりと入っている。二人の思い出の味だ。厚くなった眼鏡のレンズも伸びた前髪も、顰め面を隠すのにちょうどよかった。
 小刻みに振動し続ける男の足は、出来の良くない椅子をギシギシと鳴らす。木製のそれは、工房で働くようになる前の彼が手慰みで作ったものだった。
 グレゴールはパメラを、そして彼女の腕の中にある命を見つめる。こんなものが生きていけるのか。都市で、裏路地で、鋸刃にへばりついた肉片よりも柔らかそうな嬰児の髪をパメラが撫でた。癖の付いたブラウン。グレゴールは込み上げてきた吐き気を甘いコーヒーと共に飲み下す。
「……パメラ。俺はまだこの通りで、自分の工房も持ててないし、……ああ、なのになんで帰ってきたのかっていうとだな」
「ええ」
「あ――――会いたかった。君に、会いたかったんだ」
「ええ、わかっています。……グレゴール」
 その声があんまりにも優しくて、優しすぎたものだから、グレゴールは思わず俯いた。奇麗に映るよう拭かれた床と、床を踏みつける汚れた靴が見える。続けられるであろう言葉を聞きたくはなかった。けれども、耳を塞ぐには手が足りなくて。
「おかえりなさい」
 絶えず注がれる眼差しはきっと愛で、赦しで、罰でもあった。
 口の中が酸っぱい。

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