ねだれば殺してくれますか

 ――農場を出て、戦場に行く。
 鍬を持つより剣を振るうのが様になる男だから、生まれついての男であったから、それを告げられたところで驚きはしなかった。種を蒔いて水をやるより鮮血を撒き散らしながら命を奪うのが性に合っている男は、だから、当然のように私を置いてゆくのだ。
 そして名誉とかいうもののために死ぬ。
 …………わかっていたことだった。
 私にはトールギルを煽てることも止めることも、それなら攫っていってくださいと嘯くこともできない。自身が発した言葉に酔う彼の横顔を見つめながら、両親になんと言うべきかを考えていたからだ。
 残念なことに、この男は跡継ぎではなくなってしまった。婚前の娘の処女だってくれてやったのにこれなのだ、父母が落胆するのは目に見えている。オルマルに近付きなさいと妹に囁いておいて正解だったのだろう。
 オルマルは戦争を愉しめるおとこには見えない。悪いことではない。悪いひとではない。そう、忌むべき邪悪は、トールギル――――あなたのようなひとなのだから。
「……帰ってくるの?」
「おう。首飾りでも指輪でも、欲しいものがあればなんでも持って帰ってきてやるよ」
 子供から棒切れを取り上げるのとはわけが違う、トールギルを引き留めることはできないだろう。
 トールギルを死から守ることはできない。ヴァルキュリヤに連れ去られるのを眺めることしかできない。もしくはどちらでもない。ただ、ただただ彼を失うだけ。
「楽しみにして待ってろ、ポーム
 牙を剥く獣にも似た笑みが、悲しいほどに似合っている。 とにかく誰かを殺したいと言いながら笑うおとこの口が語るのは、ただでさえ得難い明日よりもずっとずっと先にあるのだろう希望で、私にはそのうちの、ほんのすこしすら理解することもできない。
 トールギルの腕が私を包む。包まれた私は、目蓋を閉じる。ああ――あなたが居なくなったら私は、私は誰に抱かれたらいいのだろう。いつまでもこうしていてほしいのに、願う相手があなたでは、叶うものも叶わない。

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