テディベア欲しいと泣いてたあの子は

 つまらねェ、と一蹴されるつもりで持ちかけた。退屈そうにしていたし、わたしはそれ以上に退屈だった。ちょっとした刺激が欲しかっただけなのだ。欲求不満ということに嘘もなかったし、万が一、もし本気に取られたとしてもすぐに逃げればいい。そう考えていたのを後悔しながら、『やっぱりやめておけばよかった、なんて思うようなことするんじゃねェよ』と、今までに数えられるだけ投げられてきた小言を思い出す。
 だからといって、いや――だからこそ、わからせるためにこんなことをしているのだろうか。そんな善いものだろうか、……これは。
 眼でも見れば少しは考えも読めそうなものだけれど、一度閉じた目蓋を開こうという気にはなれなかった。聞こえる――――兄のようなひとが、私の肉に吸い付いている、湿り気を帯びた微音が。時折り内腿へ触れる髭の感触は、誰がそこに居るのか知らしめていた。それにしても、ああ、へたくそだ。
「気持ち良くねェか」
 どんな顔して、慣れないこんなことしてるんだろうか。
「う、ぁ……やらないほうがマシ……」
「ったく。こういうときくらい慎みとか可愛げってもんをな」
「い、や、だ」
「大体、誘ったのはオメーだろ」
 そうだ。そうだけど、乗ってくるなんて想定外だった。
 こんなに、無理にコトを進めるような“男”だなんて予想できるはずなかったし、知っていれば悪戯心だって生まれやしなかった。こいつは妹みてェなもんだ。お前はかわいい妹分だからな。妹だ、いもうと、いもうとだと。宣っていたのは、他でもないノブナガだ。間違っても乗ってくるはずがない。そう、思っていたのに。
「……その辺の男じゃ物足りないって、言ったよな」
「…………え?」
「オレに見せらんねェような顔も、そいつらには平気で見せてたんだろ。そろそろ教えてくれよ、オレにも」
「なに、言ってんの、……にいさん」
「くっ、…………くくっ、にいさん、なァ」
 思わず見開いた目に映るその自嘲が、どうしても信じ難かった。どうして。どうしておまえが、ちがう、にいさんが、ノブナガ、あなたが。どうして。どうして。どうして。
 どうして。
「これでも一応――いい“オニイチャン”で居たかったんだぜ」
 傷跡が過去が心が作り上げてきたものがすべてのまやかしが、腫れて、膿んで、腐り、落ちていく。ぐずぐずに……みっともなく、腐り落ちていく。
 今更「悪いな」と撫でられたところで、その手はもう知らないオトコのものだ。迫り上がる嘔吐感に涙ぐめば、零れる前に指が拭った。昔、遠い昔、誰かが同じようにそうしてくれた優しさは――
「けどな、ザクロ。お前のことを妹だって思ったことなんか、一度もねェんだ」
 それだけは、わたしが恋い、焦がれたあなたと、そっくりだ。

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