
わたしのひどいひと
ジョルディ・チン、というフィクサーが居る。
ジョルディについての噂は多い――そのほとんどは彼の仕事、つまり殺人だとか、誘拐に脅迫、破壊工作、ありとあらゆる犯罪行為に関することだ。
情報を集めるのは簡単だった。
……本当に、簡単だった。
噂から真実を抜き取り、スクラップブックでも作るみたいにまとめていけば動向がわかってくる。ジョルディは生半可なフィクサーやハッカーがそうするようにその痕跡を隠そうと躍起になりはしない。適当な監視カメラのログを漁れば、名刺代わりの高級スーツを身に纏った男の鮮やかな手際と所行がすぐに見つかる。
そうして――――私の両親を殺した場面も、まるで、私に見つけられるのを待っていたかのように残っていた。
「またハッキングか。ほんっとうに飽きないな、お前も」
「……これで食べてるようなものだからね」
ジョルディがこうして現れた回数を記録するのは、暫く前に止めた。
あまりにも頻繁にここへ出入りされるものだから、私の安全を保証してくれと言ってみたことがある。答えは『俺に頼むなよ』だったが、今のところ彼以上に無礼なにんげんと出会してはいない。
「で、嫌そうな顔してキーボードを朝から晩までカチャカチャするより楽に過ごせるって提案を断り続けてるのはどこのどいつだ?」
背凭れに体重を預ける。椅子を回して彼と向き合う。マルチモニターの青白い光に照らされながら薄く笑う男が壁に寄り掛かって炭酸水を飲み始める姿は、住み慣れた人のそれだ。
「…………」
「そう睨むなって、可愛いだけだぞ」
「あなたと関わりたくない……」
「よく言われるよ。これ食うか?」
ジョルディは持っていたタコベルの袋を投げ渡す。まだ温かい。
「ブリトー?」
「クランチラップ」
好きだろ、と。
なんでもないことのように付け加えたジョルディは、私が何も言わないのを、それでも良しとしたらしい。
――スマートフォンを起爆させることもできる。ショートカットに登録した腕の立つフィクサーを呼び出してもいい、あるいは、私ごとここを木っ端微塵に吹き飛ばすこともできる。
両親を殺した日と同じハンドガンで遊び始めた彼は、手を動かしたまま目線を私に寄越す。
「燕、あんたじゃ俺は殺れない」
「……」
「だから睨むなって」