
とめどなくて春の雷
予想よりも早く訪れた嵐に襲われて、トターとザクロはロドスの用意したセーフハウスへ駆け込んだ。
他に近場で任務に就いているオペレーターは居ないらしい——通信機には本艦からのメッセージがひとつだけ入っていて、ザクロは手早く返答を打ち込んでいく。
「源石が混ざりすぎてて民間優先、状況は混乱中。こっちの救助は難しいって」
「……そうか」
予想できたことだ。装備に被害が出ていないだけ御の字だった。
ザクロはそれよりも、トターの足に鞭を打つかの如く無理をさせたことが気になっていた。
すぐに物資の中から緊急用の痛み止めを取り、シリンジへ入れる。ドアに寄り掛かっているトターの元へ急ぐと、担ぐようにして運んで簡易ベッドへ寝かせた。簡易とはいえ、大柄なオペレーターにも対応できる大きさだ。トターが足を伸ばして横になってもまだ余裕がある。
「じっとしてて」
そう言うが早いかザクロはトターのコートを剥いでシャツを捲り手早く消毒を済ませると、矢継ぎ早に神経に注射器の針を差し込んだ。
すぐに効くが、大して強いものではない――しかし、これでやっとトターは呼吸を整えられたようだった。
「……すまない。手間を取らせて」
「そこはお礼を言うだけでいいの。さて、ちょっとだけ安静にしててよね」
「この嵐じゃ、どうせ暫くはなにもできないからな」
「そういうことではなく……まぁ、確かに。この規模に当たるのは久々かも」
簡単に破れるものでもないとはわかっているものの、防壁を叩く音は不安を掻き立てるほどに激しい。ドクターたちも奔走している最中だろう。嵐が過ぎ去れば事後処理が待っている。
被害を想像するだけで気が滅入りそうだったが、ザクロはもう一度物資を探り、インスタントのスープと乾パン、そして自分のバッグから配給のチョコレートを取り出した。
「こういうときこそ食べなきゃね?」
女の朗らかな笑い声が小部屋を満たす。
「賛成だ」
トターも、それにつられて笑った。
――――トターと女がセーフハウスに避難してから、数時間が経つ。
左足の激痛は痛み止めが緩和してくれたが、その効果も切れてくる頃だった。足の感覚が痛みと共に戻ってくる感覚を覚えながら、トターは身体をそっと横にずらす。
食べて、温まって、緊張の解けた女は、あれからすぐ眠りについていた。
「ん……トター?」
雨に濡れた服は脱いでしまって、今、ベッドの上には裸の男女が隣り合っている。トターは、無意識に身を起こそうとする彼女の体を引き留め、包むように抱き締めた。
「どうしたの」
問いかける声は、しかし答えを求めてはいなかった。しょうがないね、と甘やかされる。女の手が締め付けのなかでもぞもぞと動き、やがてトターの背を撫でた。
数時間前よりも激しく、嵐はそこに混じる源石と共にセーフハウスの防壁を叩く。
それはまるで、死を司る神がドアをノックしているようにも聞こえていた。
「――ねえ。しようか、トター」
今度のそれも、トターの言葉を求めてはいなかった。
唇を受け入れて、まさぐるように絡ませてくる舌を受け入れて、ぴくぴくと反応し始めたペニスを柔らかい太ももでそっと擦る。男の行動は、彼が一から十を語るよりもはやく、わかりやすかった。
「挿れたい……」
あまりにも直接的な願いに、ザクロは目をぱちくりさせて破顔する。
「足の調子は?」
「……少しくらいならいいだろう」
「あ。痛むんだ、じゃあだめだよ」
誘っておいてなんてことを言うんだ。そう言わんばかりにトターは唇を尖らせ、眉間に皺を寄せてしまう。ザクロはくすくすと笑いながら首を振った。
「違う違う、しないんじゃなくて――」
彼女はトターの肩を掴んで仰向けの姿勢に導くと、「こういうことだよ」と、言いながら彼の腰の辺りで中腰になってみせた。ぐぐ、と更に上向いたペニスの先端が、女陰を掠める。濡れていた。すぐにでも入れそうだと思えば、興奮は増した。
「搾り取ってあげようかなぁ」
そんなことを言いながら、ザクロはトターのペニスに自分のクリトリスを擦り付ける。つい先ほどまではただ受け入れ、認めて、甘やかすだけだった彼女の、彼女自身の欲望がトターに向けられていた。ごくり。生唾を飲み、男はたどたどしく首肯する。
「いっぱいしたいもんね。このなか、いっぱい出したいよね?」
トターはまた、頷いた。
「…………もう起きてるの、トター」
夜はとっくに明けていた。
トターは、風が止んだ、とだけ返した。足の痛みで起きていた、とは言わなかった。
「ほんと。静かだね」
「ああ」
「もうちょっと寝ていようよ。まだ、……あれ、いま何時?」
「夜明けまでまだある」
嘘だった。
トターは素知らぬ顔をして、女の首元に顔を埋めて息を吸う。情事の名残を探していた。
「ん、どうしたの?」
もしもザクロを喪ったなら、トターはきっと、似たひとを探すだろう。
声の似た、顔の似た、背格好の似た、性格の似た、あらゆるひとをその目で追うのだろう。だけれど、決して満たされることはない。誰一人として彼女に及ぶものはない。確信めいた予感だった。そして、彼女が自分を喪ったときにも同じようにあってほしいのかとも考える。
――……いいや。
首を振る。
首元でそうされた女は、トターが甘えているのだと思って彼の頭を撫でてやる。
「どうしたのったら。ふふ、しょうがないな……愛してるよ、トター」
俺もだ。
俺もなんだ、それなのに。
「トター、あなたを愛してる」
言葉が詰まって、いつまでも出てこない。
嵐はもう止んでいるというのに、一晩中鳴り続いていた音はいつまでもトターの頭から離れていかなかった。