
トロイメライでは癒やせない
目が離せない女だと思ったのは、これで何度目のことだろうか。
冷蔵庫にはいつも数本の発泡酒と安売りの缶チューハイ。俺が来るようになってからは、味の薄いオレンジジュースがそこに加わった。忘れっぽい上にずぼらでそそっかしいくせに、律儀なやつ。
なるべく冷えた缶を選んで取り出してプルタブを引き、何も考えずに喉を潤す。飲み込んだという実感も無いまま中身の失せた缶の行き場を探して、結局ゴミ袋を引っ張り出すことになるとは思わなかった。引いたはずの汗が滲んで、鬱陶しくて仕方が無い。
「ったく、しゃあねーな……」
タオルを敷いただけの床で眠りこける柘榴を跨いで、ベランダに続く窓を開ける。夜風を取り込んでしまえば変わるだろうと思っていた空気は行為の名残りを残し、澱んだまま部屋から出て行こうとしない。風の無い、蒸し暑い夜。見た目からして古臭い扇風機が上げるべきではない音を立てて首を振る。蝉と鈴虫が同時に鳴いている。バイクの轟音が遠くから波のように繰り返し押し寄せる。大音量で流行りの曲を流す車が目の前の道路を横切って、俺は乱暴に窓を閉めた。
俺からすれば我慢ならない数々を慣れたものだと笑い飛ばした女の手を取れば、素直に繋がれる指。左手も右手も綺麗なもので、今となっては何の痕も見られない。そう。もう――――しがらみも、無い。
幸せそうに眠るのは、幸せそうに眠れるようになっただけだと知っている。
「そろそろ言わせてくれや、好きだって」
きっと逃げるか誤魔化すだろう。二度と人を信じるものかと決めた瞳に映る俺はいつだって滑稽なものだった。それでも。と、離れない俺のことを本当はどう思っているのか。
夢の中より安らかな場所をお前は知らない。それが――きっと、かなしい。