
嘆きの川にて
殺して。
殺して。殺して。
「――――幻聴、ですか?」
定期検査の最中だった。怪訝な顔でそう聞き返した医療部のオペレーターに対して、トターはあまりに落ち着き払った態度で頷いた。
殺して。殺して。殺してほしい。
ウッドハウスにあるラジオよりもはっきりと聞こえるその声の主を、トターはよく知っていた。だから怖がるようなことでもなければ、特別なことをする必要など無く――変化は無いかと聞かれたから答えただけだと言わんばかりの態度に、オペレーターはペンを走らせていた手を止めて再び眉間に皺を寄せる。
「ですが、放っておいては任務に支障が出るのでは。生活だって……」
「いや、問題無い」
きっぱり。
天性の狙撃手と評価されるトターのことだ、我慢強さから言っているのだろう。そう考えたオペレーターは「そうは言いましてもね……」とその先を言いかけ、止める。いや、止められた。
「邪魔はしてくれないんだ、ザクロは」
殺して。殺して。殺して。
「………俺はそれでもいいって言ったんだけどな。それに、良いこともある」
「良いこと?」
目蓋を閉じて聞き入るように、トターはその“幻聴”へ耳を傾ける。口元には微笑み。頬は僅かながらに紅潮し、体は弛緩する、まるで、そう、それはまるで――
殺して。殺して、トター。そうじゃないと私、あなたを呪うわ。
呪ってやるわ、永遠に。
「こうしていると、落ち着くんだ」
恋をしている男の顔を、オペレーターはそれ以上見ようとしなかった。