坩堝が虜

 ――星に、願いを。星に、祈りを。
 この日々を、どうか照らしてくれますように。彼の人を、どうか死なせてくれますように。静かに光り輝いて、やがて瞬くばかりの星は今夜も応えることはない。知っていた……知っている、こんなことは無駄だとわかりきっている。
「また此処か。体は冷やすなって何度言えば理解すんだ」
 柘榴、と。咎めるように名を呼んだアランは、私の立つバルコニーへは一歩も出ないまま「さっさと戻れ」とだけ言い捨ててベッドルームへ向かった。アランの命令に逆らう権利を持たない私は、言外に含まれる“一分以内に”を厳守するため室内へ戻るしかなかった。
 アラン・呉の居る空間は、いつだって息苦しい。
 濡れた髪を乾かさないものだから、水滴が点在する床。彼の動線をそのままなぞって、開け放たれたドアにノックをして、真っ暗な部屋で寝そべるアランへ存在を知らせる。言葉は返ってこない。冷たい視線が私を刺した。私だって、好きであなたに付き添っているわけじゃない。そう言えたらどれだけ楽か。声があったら、どれだけ楽か。
「……さっさと来い、柘榴
 私は今日も、この男に抱かれる。
 アラン・呉の種で孕むまで抱かれ、アラン・呉の子を産む。完全な鬼魂グイフンを習得した、呉の血が濃く、しかしアランとの直系ではない――条件に当てはまる者は多くなくとも、私だけというわけではなかった。ただ、さて誰を宛てがうかと決めようとした瞬間に私が見つかった。たったそれだけの理由で、好きでもない男に処女を捧げることが決められた。
 横になりながらも隙の無いアランを見下ろしながら、息が詰まる。室内でも、室外でも、どこでも。この世に彼が居る限り、私の呼吸が上手くいくことはない。
「そんなに嫌だったか、俺とヤるのは」
 縦にも横にも振らない首へ向かって伸ばされた彼の手は、緩やかに締め上げながら私の体を引き寄せるために動いた。
柘榴
 咎めるように、私の名を呼ぶ。
 その度に、私の名が、まるで罪状のように感じられる。
「そんなに嫌いか、俺のことが」
 背中に回される腕の太さが、あの人に似ている。あなたの腕に貫かれ死んだ、愛しいあの人に似ている。あの人に似ているせいで、涙が溢れてしまいそうになる。私の臓腑を燃やす憤怒は、この男を殺すには少し足りない。

送信中です