
恋だといいな(聞いた限りじゃいいものだから)
「わたしの、かわいい、ニコ」
オレを愛称で呼ぶひとなど、錆び付いて動かなくなるそのときまで、もう、居ないものだと思っていた。
ベッドに腰掛ける柔らかな声の言いなりとなればすぐに傍らへ導かれ、「おいで」と膝へ頭を乗せる許可が下りる。
体温、脈拍、発汗量。瞳の潤み、髪の艶。記録しておきたい。記憶していたい。記録しておかなれば。機械としての判断なのか男としての欲なのか無意識に記録媒体へデータを書き込んでいくオレの様子を怪しんで少しばかり眉尻を下げた彼女の目元に影を落とす、長い睫毛のことも。ヘルメットを外した頭部に触れる繊細な手付きは、そう、在りし日のマーマに似ている。まるでオレは、キミに愛されているようだ。
あいされている。おれは、きみに。
ピピピピピ。
「お時間、ですね」
オレの頭から手を離してアラームを止めた彼女が他人行儀な笑みを浮かべる。
おかしい、と思った。いやだ――そう思った。
「……え、延長、は。可能だろうか」
キミの視線が泳ぐ。そんなことをマーマはしなかった。けれど今のオレは残虐ファイトで名を轟かせているロボ超人で、この子はマーマに似ているだけのただのひとだ。超人の我儘が人間をどれだけ困らせてしまうのかくらいは知っている。金ならあると続ければ静かに頷いて備え付けの電話を指差してくれたので、オレは後ろ髪を引かれる思いで身を起こし、そのついでに剥き出しの女体を抱き上げると――僅かに青褪めて俯く顔を覗き込むことにした。
「キミは、きれいだ……」
乱暴をするつもりだった。
溶けきらない氷を慰めるために、一度だけバラクーダが用意してくれた店を頼った。そんな、暴力的な気分だった。使い捨ての女たちだ。誰でもよかった。誰でもよかったオレの前に、やって来たのは、キミだった。
ひとめ惚れなんだ。
――そう言って、信じてもらえるだろうか。心まで機械で出来ているわけじゃあないことを、この身にもキミと同じの赤い血が流れていることを。
覆面越しに触れる肌、ひんやりとした乳房、微笑ましいほどはやい鼓動。信じてもらえなくたってなにもかも買い取ってしまえるなら、この社会も悪くない。