
マルジャーナ、君に相応しい
女は海だ。女は空だ。女は陸だ。数々の喩えが頭を過って、そのすべてを否定する。
目の前にある女の肢体は、この世に二つとない我が宝だと確信した。
「ぺ、るり、いい、きもちいい……っ」
停泊する艦の船長室には誰も来ないのをいいことに、恋人を連れ込んで交わっている。長屋では誰が来るとも知れない。かといって、そういった店を利用するのも立場上憚られる。消去法で残されたのが、此処だった。『隠し刀』は慣れないベッドに「床から浮いているのは落ち着かない」と文句を言ったが、「そもそもここは海の上だ」と返せば眉間に皺を寄せて「尚更だ。ぞっとしない」などと続けたので「俺に集中していれば気にならなくなる」と口を塞いで黙らせたのが、少し前。少し――いや、どれほど経ったのか正確には覚えていない。
はっきりとわかるのは、今の俺には隠し刀しか見えず、隠し刀もまた俺を求め続けていることだけだ。
誰にも言うなと密やかな合言葉めいた名を囁かれ、古びた鍵を射し込むように囁き返せばまたよく鳴いた――それを知る唯一だった片割れには恨まれるやもしれぬ。だが、結局のところお前の片割れはあの者しか居まい。
我々が翼を並べても、俺の心をすべて捧げても、お前の失われた半身の代わりにはなれないのだ。
故に。
……故に、せめてこの時だけはと思わずにはいられない。
「マシューと、呼べるか」
蕩けた瞳が不思議そうに見つめ返してくる。聞き慣れない言葉の意味を思い出そうとしているときの顔だ。俺の名を知らないわけではないだろうが、すっかり“ぺるり”が馴染んでいるらしい。その舌が縺れてしまうのも可愛いのだが困らせるのも本意ではないからと、矯めようとしてくれていた福沢たちを止めてそのままにしたのが悪かった。
「ます、ゅ……?」
「マシュー、マシューだ。俺の名だ。俺の名を――呼んでいてくれ、このまま……っ」
隠し刀が頷いたのを見て、その腰を掴む。最奥を穿とうとする本能を受け入れる姿に酔い、媚肉の虜囚となりかけながらなんとか正気を保つ。終われ。終わるな。まだこのままがいい。この時だけは、俺のためだけのお前なのだ。
「ああ、っあ、しう、マシュー、マシュー……!」
世界の終わりが来るとして、明日にも俺の命が潰えるとして、しかし、これで後悔は無いのかもしれない。最愛の者を探し求める旅人のように、お前が俺の腕の中、ただ俺の名を呼び、涙を流しながら叫んでいる。胸を締め付けるこの愛おしさで気が狂うとして、きっと俺は最期まで笑っていられる。
「ああ、そうだ。俺はお前のものだ…………」