
支配下の阿吽
父の言葉は絶対だった。
喋り方、髪の一本、爪の先まで。私のすべては、父の意向へ添うようにできていた。そのように産ませて、そのように育てたのですから、それは当然のことでした。そんな父でも、たったひとつ、人の――ひととしての心だけは、思い通りにならないものだとお考えになっていた。だから父は事毎にこう言ったのだ。選ぶなら、手のあたたかい男にしなさい。強さだけを求める者の手は冷えきっている。私に勝てる男にしなさい、お前を守れるだけの男に。そして最後にわたくしを撫でた父の掌はあたたかく、大きかった。
この手は似ている、父の手に。
大きさ、厚み、爪のかたちも、泣きたくなるほど父と似ている。けれど―――不破刃の手は、とてもつめたい。殺意を纏い続けてきた者の掌が、父のようにわたくしを撫でる。髪を。頬を。胸を。父でも触れなかったわたくしの内、その奥までも。
「拙を前にして物思いに耽るか、……お前というやつは」
「女なんてそんなものでしょう」
「…………」
「ふふ、ほとんど冗談です。刃さんは、その――父のようだと思って」
「ほう」
言葉を返しながらもぼんやりとしていた意識を引き戻そうとする甘噛みに唇を支配され、吐息がかかる。図体の割に可愛らしい拗ね方なものだから可笑しくなって溢れかけた笑いを誤魔化すように「安心します」と囁けば、顰められた顔は更に険しくなってしまった。その頑なな眉間から頬、引き締められた口元へ啄むようなくちづけをしても、彼の機嫌は直らない。どうしたものか。こんな時はどうするべきなのか、尋ねてみようといつものように縋る視線を遣った先には、物言わぬ死体が転がっているだけだった。
「父は子を抱かぬだろう」
「そうですね」
「……拙は、これで良いと思っている」
「わたくしも、そう思います。あなたが父より強かった、それだけのことですもの。父を殺したからといって恨みはしませんし、責任を取ってもらうつもりもありません。この行為の意味も問いませんし、お気の済むまで好きにされるといいわ。……ただね、刃さん」
父はこうも言っていた。
選ぶなら一度きり、ただ一人。それと信じられる者を。
「あなたの手は冷たすぎて、どうしたらいいかわからないの」
「ならば、示そう。これからは拙がお前の主人なのだから」
………………嗚呼、けれど、試すだけなら父様もきっとお許しくださる。