
もしかしたらって思ったりして
『フットサルゴールとほとんど同じ高さなんです』
成長期を迎えて少ししてから、何度も口にした言葉。
飽きるほど繰り返し説明してきた私の普通じゃないところ。高校生になってからは自動的に出てくるようになったその言葉に、初めて「はあ?」と返してきたその人の名を、雷市陣吾と云う。
「お前さあ、ちょっと離れて歩けよ」
「いいけど、どうして?」
「俺が目立たねぇ」
と、微かな舌打ち。首筋に流れる大粒の汗を拭い、雷市くんは振り返って私を見上げる。周りよりも頭一つ分ほど背が高い彼よりも頭一つ分ほど背が高い私は、珍しい行動だなと思いながら機嫌の悪そうな雷市くんの言葉を待った。
「なあ! ちょっと涼んでいこうぜ」
指差す先には、大型中古書店。贅沢出来ないけど家に帰りたくもない学生の溜まり場にもなっているその場所は、毎年過剰なほどに冷えているのをみんな知っていた。
私が通っている高校はちょっと名の知れた底辺で、生徒たちは伝統のように万引きを繰り返すものだから、制服のまま入るだけで店内の警戒レベルは最大値に跳ね上がる。雷市くんの後ろにぴったりとついて入店すれば、当然のように視線が刺さった。「感じ悪りいな」と思ったままを口にした雷市くんは迷うことなくスポーツ関連のコーナーに向かう。私を置いて行くことにも躊路が無い彼との距離を詰めるには大きめの一歩があれば充分で、それが気に食わなかったのか、今度は大きめの舌打ちが聞こえた。
棚と棚、立ち読みをしている人と人の間、雷市くんの隣で、私はどうにか興味を持てそうなものはないだろうかと本を眺める。身長だけで勧誘されたバレー部は、入部から三日で辞めさせられた。それきりスポーツには縁が無い。
「いつもこうなのか」
「うん」
「腹立たねえの」
「ううん。いつもだから」
「お前のせいじゃねーのにな」
手に取ったサッカー専門誌をぱらぱらと捲る雷市くんは、「テキトーに見てきていいんだぜ」とこちらを見もせずに言う。彼はそれきりどっか行けとももっと離れろとも言わず、黙々と専門用語が並ぶ文章を追いかけている。だから私は彼の真横にぴったりとついて、同じところを追いかけながら首を傾げた。