愛及屋猫

「鼠捕りの礼を持ってきた」
 ――――という口実で隠し刀の住まいである長屋にやって来たペリーは、暫く足を運んでいなかった間に加わったらしい猫たちから威嚇されつつもいつものように庭へ立った。
 良いところも悪いところも塒の主人に似ている猫たちは暫くすれば興味を失くして好きなように過ごすか、そうでなくても貸し猫として何処かへ行くものだと知っていた。
「お前たち、依頼だぞ。桂のところへ行ってきてくれ」
 予想通りだ。足元の猫が隠し刀の手元へ向かう。
 ついでにと手紙を持たされて扉から出ていく数匹を見ながらペリーは葉巻を吸おうとし、そこで容れ物ごと忘れたことに気が付く。らしくない失態を誤魔化し、無聊を慰めるように“刀”の時代が終わっても動物使いとしてやっていけそうだなと胸中で独り言つが、しかしそれは侮辱と捉えられかねない考えだった。
 ――だが、俺自身そんなお前を想像するのは難しい。
 男が一抹の寂しさを覚えながら空を見ていれば囲炉裏の側で暖を取っていたはずの隠し刀がいつの間にか隣に立ち「今日は冷える」と色褪せた唇を尖らせるものだから、ならば戻れと言えば素直に頷いて戻ると知っていて「近寄れ」と返す。やはり素直に頷いて男の体へ凭れ掛かったその人の肩を抱いて、ペリーは息を細く長く吐いた。
「……冷えるな、本当に」
「ああ、だからお前とこうしていたい」
 男が思わず閉口したのに気付かず、隠し刀は彼の軍服へ顔を擦り寄せて笑う。精神のみならず肉体でも繋がったばかりの恋人は若く、生来なのか育ちゆえか感情の表現に乏しく、しかし――ペリーは蕩けた瞳で見つめられた夜を想起し、その甘さに喉を鳴らした。
 浪人を組み敷いた場所は、すぐそこだ。口実を携えなければ訪れることができなくなった理由だった。
 嬌声を上げる口を塞いで、肌に痕を残し、年甲斐もなく我を忘れ疲れ果てるまで続けていたそこは、ペリーにとっては綿の詰まった布を一枚隔てただけの、ほとんど床のようなものだ。それもそのままエンガワと呼ばれる場所から庭へと続いているのだ、冷静になってみれば、こんなところでと自らの正気を疑わざるを得ない。
「ペリー」
「む。……なんだ、またなにか聞きたいことでもできたか?」
「今日はしていかないのか」
「するとは――いや、わかった。それ以上言うな」
 だが、誰しも正気で心を明かしてしまえるものだろうか。
 先程より艶めいて見える唇へ取り憑かれたように口付けながら男は一時、故郷をも忘れた。

送信中です