
多頭飼い
――鬼が増えている。
どういうことだ。と、F.A.N.Gは仮の棲家としている部屋の扉を閉めた。すると内側から開かれようとしている扉の向こうから「先生!」「先生、おかえりなさい!」「先生におかえりを言うのは阿鬼です!」――などと姦しい声が洩れ聞こえてきたので、F.A.N.Gは力の限りドアノブを固定しながら己の眉間を押さえる。
どういうことだ。もう一度、今度は声に出して呟くと、受け入れ難い事実が現実としての質量を増したように感じられた。この瞬間にも金属の板一枚を隔てたところで三人の鬼が何事かを訴えているし、F.A.N.Gの頭は既にそれらをヒトの言葉として認識するのを拒んでいる。受け入れたら終わりだ。しかし、どうにかしなければならない問題でもあった。こんなものが増えたままで困るのは自分自身なのだ。
F.A.N.Gは悩み、稍あって扉を開く。
彼を出迎えたのは、やはり三人に増えた鬼だった。
「先生。阿鬼、増えちゃいました」
「ました、じゃないデスよ。一体全体何が起きて――」
「目が覚めたらこうなってたので」
「阿鬼にはわかりませんけど……」
「これでもぉっと、先生のお役に立てますよねぇ」
小器用に喋る頭を分けてくれるな。
F.A.N.Gは生まれて初めて意識が遠退くような感覚を覚えたが、易々と失える意識の持ち主ならここまで生き残るはずがないので実のところかなりしっかりしていた。
あの日、あの時、気まぐれを起こさなければ。
F.A.N.Gは過去を悔いようとして、止めた。我先に褒めてもらおうとしている三人の娘それぞれの頬を素早く毒手でなぞってやれば、彼女らの赤い瞳は揃って恍惚とF.A.N.Gを映す。その色は変われど、美しさは変わらない。
「……お前は本当に、」
否。強かに毒を得て、女は美しさを増した。いつしかF.A.N.Gをも呑み込むであろう毒蛇は、今はただ愛らしく三又の首を傾げるばかり。